初夢の続きは (8)
- カテゴリ:学校
- 2013/01/15 20:54:50
遅すぎた出会い
早すぎた別れ
叶わぬ願い
何もかも誰かのせいにしたくなる
願いが唯ひとつ叶うのなら
あの日へと再び帰りたい
いつも描いていた憧れとの距離を知っても
変わらぬ朝はまたやってくる
そして秘匿は強い毒を以って忍び寄る
『初夢の続きは』 scene8 『秘密』
ゆっくりと開いた目からは、涙が流れていた。
何だかとても怖い夢を見ていた気がする。
抽象的で断片的な記憶しか残ってはいなかったが、
それは心や体を引き裂かれそうな、そんな怖さだった。
どれくらいそのままでいただろうか?
初めて見えて来たのは、闇の向こうの見知らぬ天井だった。
(あ、あれ?)
状況を整理するため、優は寝起きであまり回らない頭をフル回転させた。
(そっか私フラれちゃったんだ)
悟からは、明確な回答は得られなかった。
けれどもあの瞳からは肯定の意味を読み取ることも出来なかった。
(はぁ~)
深くため息をつくと、少し冷静さを取り戻せた気がした。
(あれ? その後どうしたんだっけ?)
脳内へ何度もアクセスを試みるが、返って来た答えは1つだけ。
【覚えてません】
そのうち優は、考えるのをやめた。
わからないものはいくら考えても無駄だから。
次に生じた疑問は「ここはどこ?」というものだった。
明らかに自分の部屋とは違う感覚と匂い。
本来なら見知らぬ所に寝かされたら、まず不安を感じるのだろう。
けれどこの部屋の匂いはそういったマイナスの感情を、どこか忘れさせてくれた。
優は、明かりを探そうと思った。
目は慣れて来たけれど、薄暗い部屋の中は良くは見えなかった。
とはいえ知らない部屋…明かりといえば…。
(そうだ携帯!)
携帯のバックライトなら、懐中電灯代わりになるだろうと思い
いきおい良く制服のポケットに手を突っ込んだ。 はずだった。
だが着ているものは、制服ではなく、あるべき位置にポケットはなかった。
(あれ、私着替えてる?)
どうやら、パジャマのようなモノに着替えてるようだった。
どこかに何か無いかと辺りを手探りで、色々探してみた。
すると枕元に、自分の携帯は置かれていた。
携帯を開き、その光で周囲を照らすと壁に照明のスイッチらしきものを見つけた。
開いた携帯の時計を見るとAM 2:32 となっていた。
随分と寝ていたらしい。
壁のスイッチを押すと、室内の照明がついた。
明るくなった部屋に、ほっとしてゆっくりと周囲を見つめてみた。
やはり知らない部屋だった。
しかし、女の子の部屋だとは即座に判った。
内装、色使い、ぬいぐるみなど、自分の部屋のセンスと、あまり変わらないような気がしたからだ。
整理された机の上に、目をやるとノートが置かれていた。
「霞 松梨」
名前の部分には、そう書かれていた。
それを見て優は、ようやく状況を理解した。
(そっか、マックで倒れちゃって松梨先輩のとこへ担ぎ込まれたんだ!)
全てを理解すると、先ほどまでの緊張感から解き放たれ、ほっと一息ついた。
張り詰めた気は削がれ、優はベッドに腰掛けた。
体はまだ幾分重かったが、ほぼ元通りと感じていた。
そうすると松梨の部屋に興味が沸いてきた。
ぬいぐるみの種類を眺め、本棚を見て、読んでいる本をチェック。
自分も読んでいる漫画を見つけ、ややテンションも上がってしまった。
その為か、先ほどまでは開けるのを躊躇っていた。机の引き出しを思い切って開けてしまった。
とくに珍しいものは無かったが、3段目に日記らしきものを見つけた。
(さすがに、これはね…)
日記には、手を触れず、そっと3段目を閉じた。
4段目は、アルバムのようだった。
(あ、子供の頃の松梨先輩ちょっと興味あるかも!)
そんな軽い気持ちで優はアルバムを手に取りページをめくって行った。
そこには、松梨のこれまでの人生が貼られていた。
(ふふっ松梨先輩かわいいなぁ~)
ページをどんどん遡って行くと、奇妙な写真を見つけた。
(あれ?これって、悟先輩と…)
3人の子供が写った写真の前で、優は考え込んでいた。
(確か、悟先輩と松梨先輩が初めて会ったのは、中3よね? じゃあこれはどういうこと?)
優は、考えを巡らせたがよくわからなかった。
わかったことといえばは、3人の内の誰かが嘘をついている、ということだった。
(誰かと言うのは正しくないな、それは全員かもしれないし…)
優はアルバムをしまい、決意を持って3段目に再び手を掛けた。
ここに全ての謎の答えが書かれているような気がしたからだ。
優は、書かれた文字を流し読む。
「さよならだけどあなたは幸せになってね」
「それが、例え運命の悪戯であったとしても、貴方と出会った事が、過ごした時間が全て嘘になってしまう…」
「今まで私は知らなかった。どんな言葉よりも、どんな態度よりも、深く暖かく癒してくれた、思い…」
「私は信じます」
現れては消える文字は、どれも悲哀に満ちたものだった。
読み進めていくうちに優も、自然と涙を流していた。
「そうだったんだ……。 そうだったんだ……」
優は、日記をバタンと閉じ、3段目を勢いよく奥へ押しやると、ベッドへ潜り込んだ。
様々な感情が、優の中をぐるぐると駆け巡った。
とりわけ不可解さと一種の気持ち悪さみたいなものが強く渦巻いていた。
(どうすればいいんだろう? 私はどうすれば…?)
そんな自問自答を繰り返しながら、それでも優は寝入ってしまった。