初夢の続きは (4)
- カテゴリ:学校
- 2013/01/11 20:55:36
石段に座り、ただ無心に空を見上げていた
ゆったりした雲の行方に、どこまでも続く空の青に
見入っていた
いつまでも、いつまでも
そうしていた
気が付くと
隣にだれか居る事に気付いた
隣でサラサラと髪が風になびく音がした
誰かが隣で
一緒に空を眺めてくれていた
けれどもお互い無言
言葉を交わす事も無く、空を見上げていた
そして…
何故だか、ひどく悲しかった
ふと風に乗って言葉が流れてきた
「約束だよ」
隣の少女が言ったものなのだろうか?
それとも、他の誰か?
その言葉は、ひどく大事なものに思えた
約束……。 それは始まり? それとも終わり?
なぜかそんなことを考えていた
「悟… 悟…」
僕を呼ぶ声が聞こえてきた
それも、2つの方向から
隣にいる少女から
石段の下から
一体どちらの声に、耳を傾けるべきなのだろう?
ぼんやりと青空を見つめながら、そんなことを考えていた
… … …
… …
…
『初夢の続きは』 scene4 『欠片』
ひどくリアルな夢だった。
世間一般で言う、予知夢って奴だろうか。
うなされていた? いやそんな感じでもなかった。
変な体勢で良く眠れなかったのだろうか?
それであんな夢を…… そう考えるとなんとなく合点がいった。
まだベットにしがみついていたい気持ちはあった。
それでも起きなければならない。
春休みは終わり、今日からは新学期なのだから。
いきなり朝型の生活というのも無理がある。
休み中ならまだ寝ている時間だ。
おそらく大半の生徒がそうなのだろう どの顔も少し眠そうだった。
学校に到着すると人の流れは体育館に向かっているようだった。
(そうか新しいクラス割は体育館だったな)
人ごみの隙間からクラス割にAクラスから目を走らせていく。
すると最後に見知った名前を見つけた。
「ナベはAか!」
Bクラスには僕と梅子、Cには松梨の名前があった。
なんだかんだで、4人はバラバラになってしまった。
それでも、梅子とは離れられない。
(前世からの因縁だったりしてな)
のんきにそんなことを、考えていると後ろから声を掛けられた。
「おはよう!悟」
振り返ると、梅子と松梨が立っていた。
「おぅ、2人とも早いな」
「早いのはアンタでしょ? こんな時間に登校してるなんて雪でも降るんじゃないかしら?
ねえ松梨?」
梅子が松梨に同意を求めると、松梨は静かに頷いた。
「松梨まで…」
B組に自分と悟の名前を見つけると、すこし不満げに梅子は呟いた。
「…なんでまた悟と一緒なのよ」
そして松梨は、一瞬少し悲しそうな表情を見せた。
一瞬のその表情を覆い隠すかのように、その時、一陣の風が吹きぬけた。
桜の花びらを巻き込んだ風は、強く、けれども冬のそれとは違い心地よい風だった。
悟は、なんとなくこの風に覚えがあった。
(なんだろう? この懐かしい感じ)
けれど、ついに思い出すことは出来なかった。
悟は松梨・梅子と一緒に階段を上がった。
2年の教室は2階にあった。
悟はBクラスの前で、松梨と別れ梅子と共に中へ入った。
まだ人影は、まばらであったが時間とともにそれも埋まっていった。
かったるい式は終わりHRが始まった。
前に座っていた2人が、担任に進行役を頼まれ前へと出た。
ひょろっとした眼鏡の男がまず自己紹介をした。
「暦村竹文です。よろしく」
次に、大人しそうな女が、くぐもったような小さな声で
「深城桃香です」
と続いて、小さく会釈をした。
それを見て、担任が口を開く。
、
「まずはクラス委員を決めてもらおうかしら? 立候補が望ましいけど推薦でも良いわよ」
いままで、静まり返っていた教室がにわかにざわつきはじめる。
だが無論名乗り出ようなどと言う奴はいない。
暦村委員長顔だし、お前がそのまま委員長で行けよ。
そんな空気さえ漂い始める。
遅々として進まない人選に、横で見ていた担任が痺れを切らして口を開いた
「う~ん 今、決まらないのなら放課後に決まるまで残ってもらうけど、それでもいいのかしら?」
居残りなど誰一人望んではいない。
一刻も早く会議を進めようと、ようやく本気で考え始めたのだが…。
(誰が好き好んでそんなメンドイ事やるんだよ)
悟が思わず頭を抱えた時、シンとした教室に梅子の声が響いた。
「私、やります」
途端に、クラスのあちこちから、歓声が上がる。
「他に立候補する方いませんか?」
暦村は一応、お約束のセリフを吐いた。
無論そんな奇特な方が居ないのは、当人が一番心得ているところだろう。
「では篠田さんを委員長に決定します」
暦村の合図と共に、深城は黒板に「委員長:篠田梅子」と書き出した。
「次に副委員長ですが…」と暦村が言い出すと
「委員長が女子だから、副は男子ね」
と担任が口を挟んだ。
男子生徒が一斉に下を向く…。無論悟も例外では無かった。
沈黙が場を支配する。
沈黙を突き破ったのは、他ならぬ梅子であった。
梅子は、スッと手を上げ
「間宮悟君を推薦します」
と発言した。
一斉に男子生徒から、拍手が沸いた。
「おいおい」
悟は形ばかりの抵抗を試みたが、無論焼け石に水だった。
なぜなら間宮副委員長に不服なのは、間宮悟ただ一人なのだから。
放課後、悟は慣れない副委員長業務でぐったりと机に突っ伏していた。
すると耳元を、優しい旋律がくすぐった。
(誰の歌声だ?)
声のするほうへ目をやると、見知った姿があった。
(なんだ松梨か 彼女はコーラス部だったな こんな時間までご苦労なことだ)
そんなことを思いながら、しばらくその歌声に耳を傾けていた。
確かに、美しく、優しい…天使のような歌声。 の、はずなのに
涙が満ち溢れているような悲しさを内包している。
そんなひどく儚い感じもした。
歌声に反応するかのように、不意に脳裏に浮かぶ映像があった。
それはセピア色の石段だった。
(なんだ! 今のは?)
悟は必死に思い出そうとした。
けれど、まったく思い出すことが出来なかった。
脳が思い出すことを拒絶しているかのような感覚。
そのデータへのアクセスは拒否されているのかもしれない。
そんな錯覚へと陥った。
また夢? 断じてそうではない。 そんな曖昧なものではない。
あの風景を、あの風の匂いを僕は知っている。
焦燥、混乱…
様々なモノが入り混じり悟を支配していった。
だが不思議なことに、精神の混乱は急速に収束していった。
それは、優しい声が悟へと囁き掛けてきたからだった。
「夢の隠し場所は …の中」
意識が途切れる寸前に聞いたのは、そんな言葉だった。
今後の展開が楽しみです。