Nicotto Town



初夢の続きは (3)



偶然を司るもの、それは神か? 確率か?

その問いに答えられる者は居ない。

どちらにしても人は導かれるように

数多の出会いを偶然と繰り返す

次に巡り会う人物とはどんな関係となるのだろうか?

友人? それとも恋人? あるいは敵?

幸せな出会い? 不幸な出会い?

出会うことに意味があるのではなく

出会ったことに意味があると人は言う

だがその出会い自体が意図的に用意されたものだとしたら?

その出会いは偶然ではない。








『初夢の続きは』 scene3 『桜花』




何かにうなされていた気がする。

けれどどんな夢だったのかはまったく思い出せない。

それに体の節々が痛い。

良く眠れなかったのだろうか?

まだベッドに居たいと言う体を、無理やりはがして起き出した。

うだうだしてても仕方がない。

新入生のためのガイダンスなるものに借り出されたため

春休みが一日短くなってしまったのだ。

「さらば、我が怠惰の日々よ」

まだ暖かそうなベットに、そう決別を告げた。





改めて時計を見ると、ずいぶんと早起きだったことがわかる。

梅子が迎えに来るまでには、まだ時間があった。

けれど何故だか今日に限っては、待つ気になれなかった。

今すぐに家を出なければいけない衝動に駆られると

普段あれほど時間が掛かっていた身支度がすんなり終わった。

不思議な感じだ。

まるで何かに引き寄せられている。

そんな錯覚。

まだ人ごみもまばらな道を、誘われるように前へ前へ歩き進めていた。



たぶん、ほんの気まぐれだったはずだ。

少し遠回りをして桜並木を眺めていこう。

普段なら、そんなことを考える余裕もないほど急いでいるのだが

ゆとりある朝は、少し詩的な気分にさせてくれるらしい。

いつもの商店街を直角に曲がり土手へあがると

目に飛び込んできたのは、ピンクのラインだった。

壮大な桜並木を見ながら歩く。

その映像は、なんとなく波のようだと思った。

寄せては返す一定のリズム。

桜並木が風に揺られ、花を舞い散らせる姿は波飛沫にも似て

とても懐かしい気がした。



花びらの波の向こうから、ひとつの影が現れた。

ウチの学校の女子の制服を着ている。

上を見上げていたその子は、こちらへ向き直ると

一直線に駆け寄ってきて、悟の胸に飛び込んで来た。

「来てくれたんですね!」

「は???」

悟は困惑していた。

(こんな、知り合い居たっけ?)

頭のコンピューターをフル回転させるが思い当たらない。

そんな悟の様子を察したのか、女の子は髪をかきあげ手でツインテールを作って見せた。

これには、普段勘の悪い悟も閃いたようで

「あぁ、優ちゃん?」

「はい!」

女の子は、ようやく笑顔を見せた。

けれどすぐに口を尖らせ

「どうしてすぐに気づいてくれないんですか~? 薄情者!」

と、悟の胸を叩いた。

そうか、あの日もこんな風に強い風が吹いていたな

悟は一年前の約束に思いを馳せていた。





あれは悟が入学したての頃だったろうか

桜並木の下で桜を見てはため息をついている女の子を見つけた。

制服は富岡のものではない、それどころか高校生でもない気がする。

恐らくは中学生、受験の下見といったところだろうか?

悟は彼女の姿に、少し見入っていた。

落ち込んだり、喜んだりコロコロ変わる表情は

悟の興味を引くには十分だったからだ。

しばらく眺めていると、少女を挟むように2人の男が現れた。

途端に彼女はしゃがみ込んでしまった。

悟の脳裏にはガラの悪い男に絡まれて、怯えてしまった少女の絵が浮かんでいた。

(これは男としては助けなくてはいけない場面だよなぁ)

そう思案していると、男達は少女の横を素通りして行った。

(あれ?)

悟には、何が起こったのか良く飲み込めなかった。

それでも、彼女の身に何かあったに違いない。

そう思い一目散に駆け寄った。

彼女の方を見ると、怯えているのか小さく震えていた。

「大丈夫? 怖い人たちなら行っちゃったよ」

そう優しく言ってみるも

彼女は硬直したままで緊張を解こうとはしなかった。

しばらくの沈黙の後、搾り出すような声が聞こえた。

「…ち、違うんです」

彼女はそう言うと自らの右肩を指差した。

そこには花びらと一緒に舞い上げられたであろう毛虫が乗っていた。

「なるほどね」

悟は毛虫を軽く指でつまむと、並木のほうへ放り投げてやった。

すると彼女はすっと起き上がり。

「ありがとうございました! 私、優です。高峰 優! 」

と自己紹介の後に、深々と頭を下げた。

あまりに大げさに感謝する優に、悟は少し気恥ずかしくなり。

「それじゃ~」

とその場を立ち去ろうとしたが捕まってしまった。

「ちょっと待ってください!」

と強引に話をさせられることになった。

「それじゃ、富岡の生徒なんですね~優秀なんだ」

「いやいやマグレだよ。 優ちゃんも来年受けるんでしょ?」

「ん~私じゃ、予選落ちです…」

そのまま優は何かを考えてるようだった。

「先輩! また来年ここで待ってますから」

「ん? あ~はいはい」

「な~んか、怪しいなぁ…。指切りしときましょ」

「…嘘付いたら、針千本の~ますっと 約束だよ」

「わかってる」

「絶対に合格しますからね!」

桜舞う中、再会の約束をして二人は別れたのだった。





…すっかり忘れていた。だから桜並木に行ったのは単なる偶然だ。

風に吹かれて桜の花びらが舞う、あの日と同じように…。

途端に一年前の彼女の笑い声、唸り声が甦って少し笑ってしまった。

「ちょっと! 何、笑ってるんですか!」

少し赤くなりながら、優が噛み付く。

「いや、ごめんごめん。しかし見違えたね?そんなのを着てるとまるで富岡の生徒みたいだよ」

「……あの~」

「ん?」

「まるでじゃなくて、生徒なんですよ!富岡の!」

「え?」

悟は驚いた。

一年前、優に聞かされていた成績は卒業も危うい感じだったのに

まさか富岡に受かるほどまで勉強しているとは…。

「本当にがんばったね」

「はぃ! 明日からよろしくね」

「ん?明日?」

「明日から新学期でしょ 間宮先輩」

そう言って深々と礼をすると、優はスタスタと学校へ向かって歩き出した。

悟はその後姿が見えなくなるまで見送った。

ふと見上げた空は、一面の青空だった。

ついさっきまでの柔らかな灰色掛かった空よりも、ずっと澄んだ鮮やかな青。

春の空というよりは真夏の目にしみるような、はっきりした青空。

悟は、その澄み切った青空を見上げながら、しばらく立ち尽くしていた。

アバター
2013/10/06 16:57
優との出会い。
この先二人はどのような関係になるのでしょうか?
楽しみです。
アバター
2013/01/11 16:42
おぉ!待ってましたぁ~♪

続き楽しみにしてます^^
アバター
2013/01/10 21:57
一気に初夢3つ読んでしまいました^^
((o(^-^)o))わくわくしました。
このあとどうなるのかな~って(*^m^*) ムフッ



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