夢飼い。【11】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/01/09 19:45:00
「え?」
その言葉を信じるか信じまいか、僕は真剣に悩んだ。
理解できない。
何を言われているのかわからない。
そもそもこれは現実なのか夢なのか区別できないしたくない。
どうしていいかわからない。
「……そう、ですか」
上の空で受話器の向こうの声を聴いて、切ってしまうまで、意識があったかさえ定かじゃなかった。
電話越しの乾のお母さんの声は、震えていて、濡れていた。
でもそれはきちんと状況が理解できているってことで、僕にはちょっと羨ましい。
腰掛けていたベッドに倒れこんで、下の階から持ってきた子機を放り出す。
天井は無感情だった。
*
カーテンの閉められた窓から差し込む朝陽は分厚い灰色の雲に遮られて部屋に届かない。
それからどのくらいぼんやりと天井と見詰め合っていただろう、ふとその時。
でんわがかかってきた。
靄のかかったように薄らぼんやりとしていた意識が急激に覚醒する。
無から引き戻されて、仕方なく手探りで子機を手に取った。
液晶画面に表示された電話番号に覚えは無い。
一瞬無視してしまおうかと思ったけど、ほとんど無意識に通話ボタンを押していた。
ぷつっ、と繋がる音がして、躊躇いがちな吐息が聴こえた気がした。
僕は「はいもしもし」見ず知らずの相手にいきなり名乗らないというポリシーを守りつつ口火を切った。
女性らしき吐息の主は、
「――もしもし、此方〝中央病院〟なのですが、
巽様の御宅でよろしいでしょうか?」
存外に落ち着いた声音でそう続けた。
「え、あ、はい」
「突然で本当に申し訳ないんですが――今からすぐに来ていただけますか?」
「え?」
「本当にご迷惑お掛けして申し訳ありません。でも、〝由貴くん〟にだけ知らせておきたいと思って――」
「ッ待ってください、病院にですか?それと、何で僕の名前……」
「はい。病院です。緑の壁の病院じゃないのでご安心下さい。その話も来てくださってからお話しますね」
「……わかり、ました」
「ありがとうございます。受付で電話を受けたと言えば通してもらえますので」
では。
笑顔で切られた。
続く無機質な電子音。
なんだかよくわからない人だった。
そもそも病院に行かなくちゃならないわけがわからない。
……けど、何となく解ってしまったような気がした。
行くしかないんだろう。
脚を軽く振り上げて反動で起き上がると、机に置かれたデジタル時計を確認する。
――AM 10 : 09
部屋着のままクローゼットから引っ張り出した黒いコートを羽織って財布と自転車の鍵をポケットに入れた。
椅子の背にかけられているベージュと白のチェック柄のマフラーを首に巻いてドアノブに手を掛ける。
手袋は……探すのが面倒だからいいか。
部屋を後にした。
*
下の階に降りると、思った以上の寒さに一瞬鳥肌が立った。
家の中なのに白い息が出る。
仕事とパートで日中家に居ない両親に断る必要も無く、僕は階段を降りるといきなり出迎えてくれる玄関でスリッパを脱ぎ捨てた。
乾いた音を立ててスリッパが投げ出される。直すのが面倒だったので無視した。
玄関に出ていたのはいつも履いているローファーだけ。
脊髄反応的に休日に履くスニーカーを靴箱から取り出した。
屈んで紐を結びなおすと、靴箱の上の棚から家の鍵を取り出す。
手をかけたドアノブは部屋のものなんか比べ物にならないほど冷たくて、伝わってきた冷気に身震いした。
がちゃり、と開くと。
雪が、降っていた。
*
――――僕が乾のお母さんから電話をもらう、ちょっと前。
乾が、学校の屋上から飛び降りた。
*****
今回は予告通りちょっと長めに書けました´`笑
今後の展開があなたの予想の斜め上を行くと期待して、
此処までお付き合いいただきありがとうございました。
画面の向こうのあなたに、精一杯の感謝を。
-糾蝶-
コメント感謝です*!
実はそれが狙いだったりして……笑
よろしければ続きを待っていただけると嬉しいです!