初夢の続きは (1)
- カテゴリ:学校
- 2013/01/08 20:55:13
風が揺れていた……
風の気配を感じていた……
何も見えない
何も見ることが出来ない
けれども感じる、優しい気配
誰からか発せられているモノだろうか?
まるで迷路に放り込まれたかのように
自然と気配というゴールへと向かっていく
やがて辿り着いたのは見慣れた景色
見慣れている? ここが?
なぜそう錯覚したのかはわからない
眼下に広がる景色は神社の境内のようだが、全く見覚えがない
けれど何故だか、この風景を懐かしいと感じていた
そこに立っていたのは、一人の少女
君は誰? 君のことなど僕は知らない
触ろうと指先を伸ばす
刹那、それはシャボン玉のようにパチンと割れて消えてしまった
すると声が聞こえる
少女のモノだろうか? いやもっと大人びた声だ
私は貴方の事なら、何でも判る
けれど貴方は……
数え切れないほどの私に出会い
時を見失う
いつか貴方に…
初めて出会う…
再び出会う…
…
やがて聞こえてきたのは歌声
けれども、その歌に聞き覚えはなかった
それどころか日本語なのかもあやしい
なぜなら伝わってくる言葉の響きさえも
まったくわからないモノだった
ただわかるのは胸を締め付けるように悲しい旋律
… … …
… …
どこからか、聞こえてくる音に、悟の意識はゆっくりと覚醒した。
なんだか懐かしい夢を見ていたような気がするけど…。
あれは本当に自分の夢だったのだろうか?
奇妙な違和感を覚える。
だが携帯を見ると一瞬にして違和感は消え去り、現実が目を覚ました。
「…もう朝か」
これが、間宮悟の、初夢だった。
『初夢の続きは』 scene1 『彼方』
「なんだ、そりゃ?」
悟の話を聞き、隣を歩いていた渡辺誠二は目を丸くしていた。
「だから初夢だって! ナベが聞きたがったんだろう? 第一夢なんてそんなモンだ」
しつこく聞いてきたナベに根負けして夢を話をしたことを、悟は少し後悔していた。
「そりゃそうだが聞けば聞くほど意味不明だな。富士山とか鷹は出てこなかったのか?」
ナベは、少しマジメな顔で訪ねてきた。
「出てこなかったな 無論茄子も出てこんよ!」
「なぁ、一体茄子の何がめでたいんだろうな?」
「知るかよ」
会話を交わすたびに吐き出される白い息。
けれどもそれはすぐに、白みがかった冬の青空へと溶け込んでいった。
「ナベ、神様なんて信じてるのか?」
「信じてる云々じゃないんだよ! イベントだろ初詣は」
「そんなもんかね?」
「それでも青春を謳歌する若者か! 嘆かわしい~ お前アレだろ?
キリスト教徒でもないのにクリスマスは祝うな! とか言っちゃうタイプだな?」
「あぁ~そうかもしれん」
「そこまで行くと救いがたいな……」
たわいもない話をしながら、二人並んで神社へと歩を進めていった。
しばらくすると二人の目の前に、勇壮な鳥居が顔を覗かせ始めた。
けれど参拝客の姿はさほど多くは無い。
例年人がごった返すこの神社も、三が日を過ぎただけあって人はもう疎らだった。
「瀬戸神社か、懐かしいな」
悟は、本当に懐かしげにボソリと言った。
ナベは本気で呆れたようで
「お前の地元だろうが! 毎年来るもんだろう?」
「いや、そういえば来てないな 何でだろうか?」
ナベは目の前が真っ暗になったかのようにトーンを落とし
「来てないのに、懐かしいって…。
まあお前がイベント事を楽しめない奴だって事は、よーく判った!!」
「あははは…かもな」
悟は、呆れたナベをなだめすかしながら鳥居をくぐった。
すると突然、聞きなれた声がした。
「お・そ・い!」
「うわっ 梅子? お前なんでココに?」
不意をつかれ悟は、素っ頓狂な声を出していた。
悟の白くなった頭は、すぐに回転を始めナベに説明を求めるように横を向いた。
しかしナベは薄ら笑いを浮かべながら言った。
「アレ? 言ってなかったか?」
瞬時にアイコンタクトが走る…。
(おぃぉぃ、言ってないだろう)
(スマン、マジで忘れてた)
悟の睨むような視線から逃げるように、ナベは梅子に近づき声を掛けた。
「よう篠田いいもの持ってるな? 一体どうしたんだ?」
リンゴ飴を2つ持ったまま仁王立ちをしている梅子は顎で、出店を指し示した。
「そうかそうか梅子! 用意がいいな!」
悟がそう言って近づいていくと、その手をするりとかわした。
「ばっかじゃない? これは松梨の分よ!」
ピシャリとそう言うと
彼女は悟たちにくるりと背を向け、スタスタと歩き出した。
しかし2・3歩、歩くと立ち止まりくるりとこちらへ向き直った。
「お代、そちら持ちですから~ゴチになります!」
と言った後にペロリと舌を出し走ろうとした。
しかし悟は素早く梅子の手をつかんだ。
「まあまあその件に関しては、渡辺君とよく話し合ったほうがいいんじゃないのか?」
暴れる梅子を、ナベに引き渡すと
「ナベ…払う義務はお前にあるよな?」
「わーってるよ」
言葉を交わし2人を出店の前に置き去りにして、先へと進んだ。
後ろで不満げな梅子の声が聞こえたが、無視を決め込んだ。
「うぉっ 寒ぅう~~」
境内に入った途端、冷たい風が吹きつけてきて思わず身を縮ませる。
さすがは冬本番。 寒さは一層増してきている。
寒さを和らげるように少し小走りに進んでいくと、
門柱に寄りかかりぽつんと暇そうに立っている人影を見つけた。
「あれは、松梨か?」
目を凝らし遠目に人影をじっと見つめる。
間違いなく彼女だ。
時計で時間を確認しては、空を見上げ白い息を吐き出していた。
(この寒い中何やってるんだか ああ、梅子と待ち合わせか)
悟は特別、松梨と親しいというわけではなかったが
梅子絡みでよく顔を突き合せてはいた。
一声掛けようと悟は少し歩みを早めて、松梨に近づいた。
「よう松梨! 誰かと待ち合わせか?」
悟は答えが少し後ろでリンゴ飴を持っていることを知ってはいたが
知らない素振りで極めて明るく声を掛けた。
けれども松梨の反応は意外なものだった。
先の展開に興味をそそられる終わり方。
次が楽しみです。
現代物ですね~
・・・これから先楽しみですが~
楽しみはまた^^