Nicotto Town


小説日記。


夢飼い。【10】





Story / 10



思わず隣の由貴を見た。
さもありなんとでも言うように、由貴は平然と告げ微動だにしない。
私は戸惑ったまま、でも何も言えなくて顔を逸らす。
胸の辺りがもやもやして、やりきれないような痛いような、変な感じ。
大体、急にそんなこと言われても良くわからない。
可愛いってなんだよ馬鹿。

母の手編みのマフラーに口許と鼻先を埋めながら深く俯いた。
コンタクトにしないのには些細な理由が三つある。
一つはアレルギー体質だということ。
二つは不器用だということ。
三つは夜外し忘れて寝てしまうかもしれないということ。
いずれも悠里に進められてコンタクトを考えた時に母に言われ、
全くもって反論の余地も無いのでコンタクトは潔く諦めた。

なのに。

どうして私のペースばっかり崩すんだよ、お前は。


「…………帰ろっか」


しばらくして、ぽつり。
由貴が漏らす。
それはまるで、空気に話しかけたみたいに色の無い声音。
由貴が何を考えているのかサッパリわからない。
わからなくていいのかな、なんて思うけど、自分ばっかり見透かされてるみたいで嫌だった。

由貴が通学鞄を肩にかけて立ち上がった。
私も遅れないように少し慌てて立ち上がる。既に由貴は歩き出していた。






また会話が無いまま駅の改札に居た。
私は非接触型の定期のパスケースを握り締めて、改札を背にしていた。
由貴と向かい合う2メートル弱の距離が遠く感じた。


「乾、電車の時間大丈夫?」
「ん。だいじょぶ」

喧騒が私たちの声をさらっていく。
はっきりとなんと言ったか聞き取れなくても、そう言ってるんだろうな、で通じてしまう
薄っぺらいんだか深いんだかわからない会話。
由貴は「そっか。じゃあまたね」いつものように淡く微笑んでいた。
「ばいばい」と口にして、ちゃんと聴こえたか確認する前に踵を返す。
ピッ、と快音をよこして口を開ける改札を何の未練も無く通ると、ふと立ち止まった。
振り返ると、由貴はもう人ごみに紛れて見えなかった。




*****


今回は短めで。
次回かその次くらいから、ちょっと長めになるかもしれません。


笑ってばかりの由貴。
煮え切らない乾。
二人の歪な関係は、徐々に歪んでいきます。



それでは、ここまでお付き合いしてくださった画面の向こうのあなたに最高の感謝を。

-糾蝶-






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