夢飼い。【9】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/01/05 23:09:04
乾の涙を見て解ったことがある。
――乾も、普通の女の子だ。
じゃあ、僕は?
「……」
「…………、」
3人掛けの椅子をそれぞれの荷物で埋めて二人で占領した。
荷物を両脇に置いて隣同士で座っても、すぐには言葉が紡げなくて。
僕は無責任だ。
それに、ずるい。
でも自覚できているならいいじゃないか。
開き直る気も、威張る気もないけれど。
「……乾」
二人して俯いたまま、僕は顔を上げずに呟く。
乾は無反応だった。
とことんだんまりを突き通すつもりらしかった。
あてつけなのはわかっていた。
だって悪いのは僕だ。
言いたくても言わない、僕が悪いんだ。
でもごめん。
僕は君が思っているより、臆病で。
空っぽ、なのかもしれない。
「なんで」
「え?」
「なんで、由貴は……私に構うかなぁ……!」
深い海の底みたいに重い沈黙の果てに、ぽつり。
乾はまた弾けた。
目をあわせない会話。
声だけなら、電話だって別に良いような気がした。
でも傍に居てあげたい。
はた迷惑でも構わないから僕の出来ることをしたかったんだ。
「……乾は僕じゃ不満かな」
「え」
「死んだのが僕で、傍に居るのが悠里だったら乾はどう思うの?」
なんて、意地悪を言ってみる。
今度吃驚するのは乾の番だ。
僕はやっぱり種を蒔く。そして水を遣る前に、飽きる。
乾が僕を見た。
勢い殺がれたこげ茶色の瞳に、映るのは僕か否か。
僕は顔をあげずに続ける。
「人の死なんてこの目で見なきゃ実感なんて沸くわけないもん。
僕は怖いよ、死ぬのは。でも同じくらい誰かが死ぬのも怖いんだ。
死ぬってなんだろうね。この世から消えることかな。みんなから見えなくなることかな。
どっちにしたってほら、僕には怖いんだよ。
これから進むべき道もわからないのに、先のことを見据えるのはもっと怖いのさ」
――さて問題、僕は「怖い」と何回言ったでしょう。
行動の全てに打算があるなんていわない。言えるわけがない。
でも無意識で行なっていることなんてきっと数えるくらいしかないんだ。
だってバレない嘘は嘘じゃない。だから僕は嘘を吐く。
自分にさえも嘘を吐いて、行方不明の神隠し。
僕はどこかに行ってしまった。二度と帰ってこない。それで構わない。
笑ったように聴こえるように、僕はできるだけ弾んだ声を出す。
虚構。偽り。つまり偽善者?
僕は誰の為に良い人ぶっているんだろうか、答えは簡単だけど、まだ出したくないんだ。
高二の冬。やりたいことも行きたい場所もわからなくて、
でも後戻りなんて出来ない。良い方向にも進めなくて、お先真っ暗ダメ人間。
生に無気力で死に無抵抗。あるがままに運命を受け入れてただ進めば良い。
進む先が見えなくても、とりあえず闇の中にも道はある。きっと。
だから今無理に答えを出さなくても、良いよね。
「……ねえ乾、今だから言うんだけど」
――眼鏡、かけてないほうが可愛いよ。
*****
構想が突然閃き、クライマックスまで脳内で構築しつつ明日のために急いで書き上げます。
珍しく、というか初めて、中編小説が完結して終わるかもしれません……!
ということで、此処までお付き合いいただいた画面の向こうのあなたに変わらぬ両手一杯の感謝を。
-糾蝶-
一つ一つが短いから、思ったより進む事が出来てますw
今まで付き合ってくれてありがとう。
……なんだか、そこまで細かく読んでもらえて本当に嬉しいです。
本当にありがとう……!
本当にお疲れ様です´ `
日常的な情景かと思えば、「死」について書き綴られていたり……
読みたくなるような面白さと、目を背けたくなるような哀切さが交わってる感じです。
……すみません、上手い事言ったつもりになってました撤回しまry
とにかく、心情の細かい描写とか含めて全部素敵でした!