Nicotto Town


フリージア


金狼の重圧…最終回

 分かっているだろ、俺は偽りの最強だ。いや、最強という言葉を使うことさえおこがましい。偽りの王者よ、お前に最強を継ぐのは無理だ。幻影は極小さな声で、だが確かに聞こえる声でバタフライに囁いた。
 囁きは徐々に大きくなる。
 『お前には無理だ。お前は必ず最強という重圧に負ける。その重圧に負ける』
 「何を言っている…俺はウルフを凌ぐ最強になるんだ」
 『俺は何度も言うぞ、それは無理だ。そう俺自身が言っている。素直になって最強になる自信がないことを告げろ。そうするんだ、凡人である俺自身よ』
 バタフライは幻影だと言うことも考えられず逃げた。逃げられるはずがないのに逃げた。

 あえて言う、人間に生まれついた時点で全てにおいて完璧という文字を刻まれていないと言うことを。それは恥じることではない、しかし最強を目指す男においてこれほどの屈辱はないのだろう。
 バタフライは天才ではなかった。それでも最強を目指し、完璧な走りを求めた。目指している自分と、それを否定している自分。表裏一体となった今・・・いや、表裏一体を通り越し、正に崩壊しつつあった。

 シンからはかなり遠めに見えるが、バタフライの様子がおかしいことに気がついた。そして、再び見せるバタフライの不可解な動きに困惑した。
 明らかに車体がふらつき始めている。バタフライは速度が定まらない木の葉が舞い落ちるようなふらつきを見せ、だんだんとその輝きを失っていく。

 無数の気配は何の躊躇もなく近づいてきた。先ほどの一つの光と同じように。
 シンはバタフライに気を取られて気が付かなかったが、無数の光がシンを追い抜いていく。追い抜かれた瞬間、シンもそれを感じ取ったのか首を左右に振る。
 「なんだ?」
 その無数の光の標的はもちろんバタフライ。
 「くそ!消えろ!・・・何でこんな物が見えるんだ?」
 ミッドパープルのEMが2体、並んで走り続けて約5分ほど。
 『どうした?速度が落ちてきたぞ。それで最強と言えるのか?厚かましいにも程がある』
 「うるさい!だまれ!」
 『それでも聞かないのか、ではライトのことはどうだ?』
 バタフライは耳を塞ぎたかった。だが、耳を塞いでも無駄だ、この声は脳に直接話しかけている。
 『お前は新参者と言ってたライトのことを恐れていたな?いつ自分を追い越すほどのスピードを持つか恐れていた。そうだろ?』
 「違う、あんなやつ関係ない!」
 『そんな強が入りをいうくらいの男が偽のウルフに勝ったくらいで、それを本物の才能と思う方が間違っている』
 「……偽のウルフだと!」
 『無理をするな。それでも最強として走り続けるなら、俺が止めてやる』
 幻影がその言葉を発した後、無数の光がバタフライの周りに現れた。光は闇の中から幻影であるバタフライを形成する。
 『この人数で言えば聞いてくれるか?』
 数え切れないバタフライの幻影が周りに現れては、本物のバタフライを追い越していく。誰も分かってくれないであろう追い越される屈辱。最強を名乗った彼には絶えられない現実であった。

 『どうだ、追い越される気分は?凡人!


 バタフライは静に動きを止めた、何かを呟きながら。追いついたシンは灰色になったバタフライに声をかける。
 「どうしたんだ?ハヤト?」
 「俺は…俺は…」
 シンがバタフライの肩を揺さぶっても、彼の光り輝いた目や激しいテンションは戻ってはこなかった。

 ゲームでウルフと対戦した全員、その全員の精神が崩壊した原因は不明と言うことで決着がついた。自分自身との葛藤がそうさせたのか…それともやはりウルフの呪いなのか?
 公道には地区トップが誰もいなくなったと言う奇妙な伝説が残り、それから、彼らがEMに乗っている姿を見ることは二度と無かった。

 静になった公道はやがて誰かが戻ってくることを望んでいるかのように活気を取り戻す。そして、また新しいトップが生まれるのだ。

 どこかの病室、つぶやきが聞こえる。
 「………俺は最強なんだ」
 誰のつぶやきかは分からない…

 
 終わり

アバター
2013/01/04 23:34
どんなことがあっても、
どんな状況に追い込まれても、
強く、
穏やかに、
自分を見失わないで生きていけたら・・・
きっと 最強になれるのかもしれませんね!
ただし、自分が最強と信じ込んではいけないのかもしれませんが^^
アバター
2013/01/03 01:40
毎回、読み終わると、すっごく次が気になりました★
完結おつかれさまでした。。。
アバター
2013/01/02 23:23
今回も最後まで読ませていただきました^^恋愛小説からいろいろ
幅広いですね・・料理を含めマルチな才能うらやましいです^^
仮想スタジオのDJも、ぜひ実現させてくださいね^^
今年も宜しくお願いします^^
アバター
2013/01/02 15:18
仄暗いビターエンドですね。
星新一さんのショートショートを彷彿させます。

何と言うか・・・己の内面を抉られるような痛々しさが感じられます。
個人的には精神崩壊に明確な理由と仕掛けがあって、
最後に大ドンデン返しがあってもアリだったかな~、なんて思ってます(素人読者の立場で好き勝手言ってます^^; 気を悪くしたらゴメンなさい)

ともあれ年内完結お疲れ様でした。
すごく楽しませて頂きました!
アバター
2013/01/01 12:48
明けましておめでとうございます!!
昨年は、いろいろお世話になりました!!

今年もよろしくお願いします^^



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