金狼の重圧…25
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/29 19:55:40
バタフライは追い抜いた光との差を徐々に詰める、そして暗闇からその実体がぼんやりと形付いきた。見覚えのある車体、そしてその色…
ゴールド。
誰1人として同じ色がないはずのゴールド。それが暗闇から形成されるようにバタフライの目の前に現れた。そして、かつて見た生気のあるウルフが乗っている。
「…これは?」
少し意識が飛んだ。すぐに回復することはなく、津波が押し寄せてくるように脳の中の意識を洗う。バタフライは速度を緩めた。
震える右腕の握力が消え去り、ハンドルから手を離す。何故、震えているのか理解できていない。何故、速度を緩めたのか。
一秒にも満たない間に見た物なのに、何かの見間違いだとしか考えられないでいた。
「ウルフ?…何故?」
その刹那ウルフは尋常ではないスピードでバタフライを置き去り、闇へと消えて行った。
そんなバカな…さっき病院で見たウルフ、そしてゲーム内で見たウルフ。それがあるゆえに幻だとすぐに理解しなければならなかった。しかし、バタフライの体の震えが、理解できていないと表している。
ついに、バタフライは高速のど真ん中で自分の走りを止めた。そして考える、今自分の目の前で起きたこと、自分の目が見た光景、一瞬でも脳裏に焼き付いてしまった信じられない記憶。
それを愚考だと言っても事実をねじ曲げることはできなかった。しばらく呆然と前の暗闇を見るバタフライ。
後ろからシンが追いついてきた。
「どうしたんだ、ハヤト?」
「どうしたって、今の見ただろ?」
「今のって…なんのことだよ?」
シンには見えていないようだった。
「…………いや、何でもない」
先ほどのテンションとまるで違うバタフライを見るシン。まるで別人でも見るかのように怯えきった新しい天才だった。
「どうしたよ、最強」
全てを励ますつもりで言ったのではないシン、微妙なからかいもあった。信じられない興奮が徐々に事実として受け止めていく時の過程としてのテンションの上下なんだと勝手に思っていた。
「……そうだ……俺は最強だ」
肩で息をしているバタフライはシンが放った最強という言葉に鋭く反応し、また徐々にテンションが上昇していく。バタフライは目を見開き、また走り出した。
風を切り裂き、大気と一体化したような感覚を得て、速さを手に入れた実感と確信を肌に受けた瞬間、また光が。
その光は尋常ではない速さで、また後ろからやって来た。