金狼の重圧…23
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/22 12:33:23
ミカミは待った、ユウジの意識が集中するまで。しばらくすると宙を彷徨うように左右に振っていた目がミカミを方へ向かう。
それを確認したミカミは、また話し始める。
「退屈は意欲を無くす。でも、ウルフは走っていたかったんだ、誰かと競いたかったんだ。だがある日のこと、ウルフは誰も今の自分と対等に走るやつ、俺を脅かしてくれるやつがいない事に気が付きだしたんだ。そしてこれからも現れてくれないかも知れないと。それからウルフの精神状態に変化が現れた」
地獄の底を見たような、そしてそこで天使を見たような、悲しいようで周りを安心させる顔を見せるミカミ。
話は続く。
「手加減をしてしまえば心が萎える、だからウルフはいつも全力で戦っていた。でも誰も追いついてこない。そのうち彼は目標を失い、レースをする退屈さに耐えられなくなったんだ。だが自分はトップとして戦わなければならない、その天秤の繰り返し。結局、それに疲れ果ててしまったんだ」
ユウジはそこまで悩んでいたウルフにショックを受けていた。ウルフが何食わぬ顔で難無く走っていた記憶しかないユウジにとっては、EM乗りとして、そして凡人としてのショックを痛いほど味わっていた。
「そして、ついに彼はそのプレッシャーを捨てた、追われる者から追う者へと切り替えることにしたんだよ。彼はやがて自分だけの競う目標ができる、自分の幻影と言う目標が彼の目の前に現れた…」
「自分の幻影?」
「そうだ、何故に幻影が現れたのかは分からない。ウルフが無意識で幻影を作りだしたのかもしれない。その幻影が常に自分の前を走っている。そして、それを追う。それがあったからこそ、彼は意欲が枯れずに走ることができていた…しかし、その幻想も静かに終わりを告げる」
理解できない高見の話し、それをユウジは一言も漏らさず聞こうと集中していた。目標にしていた、いや憧れていたウルフが公道から居なくなった真相が俺たちのせいかもしれないと、真剣に考え始めたんだ。
考えなくても良い、君たちには罪はない。ウルフはそう言うかも知れないが、どうにも存在しない罪悪感が込み上げてくる。
「悲しい終わりだ。ウルフはいつか自分の幻影を追い越せると思っていた。久し振りに挑戦者となっていたウルフは、幻影を追い抜いた時に自分は真の最強になると思っていた。だが結局、ウルフはその幻影を追い越すことはできなかった。自分の無意識が作り出した幻影を追い抜かす事なんて自分のさじ加減だと思うだろう。だがあの時のウルフの精神状態では幻影を消す力は無かったんだ。そしてその幻影を追い越す精神も…」
どんな考えを持って走っていたんだウルフという人間は。
作者である私にも理解できない思考。凡人には想像できない思考。
「誰も理解することのない最強になろうという意思と、現実に最強であるという外見が混在し、弱っていた精神はバラバラに砕かれた。そしてウルフは走ることを止めた。それからずっとベッドの上で放心状態…これでウルフについての話は終わりだ」
ユウジも聞きたくなかったのだろう、頭にのし掛かった何かを振り払うように体を動かした。呼吸を整えて改めてミカミに聞く、もう帰りたい思いを押し込めて。
「・・・・・・では、仁王達は何でウルフと同じ症状になっているんだ?」
ここにきて相通じました^^
精神の葛藤が残酷な結末にならないように気をもんでます。
仁王達も・・・
バタフライも・・・
悲しいことだと思います。自分で自分を縛るのは。
いつか、ウルフの精神が解放される日が来ることを望みます!