Nicotto Town


小説日記。


夢飼い。【6】

Story - 1 / 6





朝のHR(ホームルーム)のチャイムが鳴ってから10分後。
重苦しいような、どこか浮き足立ったような、気持ち悪い空気と
ざわめきが充満した教室に、担任が駆けつけてきて少し乱暴にドアを開いた。

そこからは、ありきたりであってそうでない、ありきたりな光景が繰り広げられた。
――出来の悪い芝居を見ているようだった。


魂が半分抜けかかったまま、一斉に帰路につこうとざわめく
生徒たちに押し流されるように、乾は昇降口を出て中庭に居た。
まるで守護者のように付き添っている由貴に、気づいているのか気づいていないのか。
付かず離れず、一定の距離を持って付き添う。
しかし乾の足取りは重かった。
いつもは由貴が、追いつけないほど早足なのに。

「――……乾、」

たまらず、声をかける。
が、乾は振り返らずゆるく立ち止まった。
いっそ気の毒なほどに乾を気遣うその声色は、かえって乾を苛立たせたようだった。

どさり。

乾の肩から、通学鞄がずり落ちて薄汚れた赤い石畳に落ちた。
この中庭を突っ切る、落葉樹に囲まれた石畳の歩道を辿っていけば
裏門から校外に出れて、目の前に丁度バス停がある。
今日は、混み過ぎていてバスに乗れそうになかったけれど。

「……なぁ由貴。不幸ってさ、ありきたりだよな。
  たとえばさ、家に帰ったら、両親が離婚してたとか。
  これってありきたりだろ?でも当人にとってはありきたりじゃないじゃん。
  ――これもありきたりなのかなぁ?由貴。
  私……涙出ない。悲しくない。なんでだと思う?」

やおら口を開いては、乾は珍しく長めに言葉を紡いだ。
酷く冷めていて、それでいて脆くて、儚くて。
徐々に校内の騒がしさが遠ざかっていく。
校内に残っているのは先生だけだろう、早く帰れって言われたから。
由貴は思わず言葉を失って、結局なにも返せなかった。
乾は、壊れたラジオのように、言葉を吐き出し続ける。

「死ぬって何かなぁ。どーゆーことだろ。
  私、本読みすぎて、馬鹿んなっちゃった。生き物の命なんて、寿命なんて、
  長いか短いか、それだけなんだっていつの間にか思っちゃってた。
  違ったね。実感なんて沸かないけど、これって乗り越えられる試練だと思う?
  いつか忘れなきゃいけないことだよね。そうやって成長してくんだよね。
  でも私、悠里の死体見てからじゃなきゃ実感なくて。
  お通やって、お葬式っていつかなぁ。行かなきゃいけないんだよね。
  行きたくないなぁ。……行きたくないよ。

  ――ねえ由貴、なんか言ってよ……!」


ストレートパーマの掛けすぎで傷んだこげ茶色の髪が、ふわりと舞った。
振り返った乾は泣いていた。
涙が出ない、悲しくないって、言ったばかりなのに。
震える声は、それ以上の言葉を由貴にぶつけることが出来なくて嗚咽に変わった。
歪められたその表情が、意味するものはなんだろう。
悠里を失った悲しみか、何を思えば良いか解らない自分自身への苛立ちか、
木偶の坊の由貴にぶつけられる怒りか、それとも、全部か。

それでも由貴は、黙っていることしか出来ない。


「ッばか……、ばか、ばかッ……なんか言えよ、いっつもうっさいクセに、
  こーゆーときだけ黙ってんじゃねーよ!馬鹿由貴!」


だって、傍に居てあげることしか出来ないと思ったのだ。
余計な言葉は、かえって乾を傷つけるだけ。
乾の感情という名の吐瀉物を受け止めてあげることしか出来ない。
いつしか瞳から零れ落ち、頬を伝って石畳に染みを作る涙は止まらなくなっていた。

乾は昔近所に居た、口の悪い駄々っ子のようだった。
その泣き顔に、惹きつけられている由貴が居た。



*****


さて、書く書く詐欺から一週間、大変お待たせしました。
inはしていたんですが構想が思うようにまとまらず……


乾視点から完全に作者視点へと移りました。
乾の思う「死」、由貴の思う「乾」という少女。
天ノ弱聴いてるせいかなんかアレっぽい回になってしまいましたが、
お楽しみいただければ幸いです。

アレですよね、乾も素ではネタ用語使わなくても話せるっていう!ry


では、引き続き感想やコメントなどお待ちしております。
ここまでお付き合いいただいた画面の向こうのあなたに、文章では表しきれぬ感謝を。

-糾蝶-

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2012/12/17 22:55
>伊勢崎さん

くふふおめでとうございます!!ry


! そう言っていただけると、私の書きたかったものが伝わったのかなと、嬉しい限りです……*
ドライアイ笑 つ【目薬】ry
今時の子(私もですが!笑)って、感情表現が上手くない子が多いですよね。
なんとなく、そういうのをイメージしてみました!


悠里んはなんとなく冷めた感じのおにゃの子です!笑
そろそろ登場!
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2012/12/17 17:22
1コメをとれたこの幸せ´`!!!!

もらい泣きするところでした 泣
というかもう泣いてます、ドライアイだった目が今は潤ってます(
涙でないって言ってるけど泣いてる乾ちゃんが不憫で……



読めば読むほど悠理ちゃんがどんな子だったのか気になっている自分がここに(^o^三^o^)爆



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