すっきりん クロニクル第3章 「闇」
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/05 01:33:14
ユーラシアとアメリカ大陸をつなぐトンネル。
日本の技術を使ったリニアモータートレインが走る計画だった。
アイルランドのゴールウェイ市近くの丘から掘られたトンネルは、大西洋を横断し遠くカナダまで続いていた。1542kmのトンネル工事はシールドマシン部分は完了していたし、最深の岩盤部分は掘削ロボットを使って貫通していた。しかし、戦争が始まり、飛行機も飛べなくなった世の中では軌道の整備など出来るはずがなかった。
入口には大きな鉄の扉がついている。その2枚の扉は開きっぱなしで、その間に黒い大きな穴がぽっかりと空いていた。
KIRIは丘の上から、その暗い穴から伸びる二つの人々の列を見ていた。
一つは入口からトンネルに入っていく荷物をたくさん持った人々の列。
電気自動車のバッテリーは2日間しかもたないし、舗装もされていない。
荷車も使えないので、荷物を持つか背負うかして歩いていくしかない。
そして、トンネルから、とぼとぼと出てくる疲れ果てた顔をした人々の列。
荷物はほとんど持っていない。本当にカナダからやって来たのだろうか。
KIRIは丘をおりトンネルに入っていく列の最後尾に加わった。ヘッドライトをつけて暗いトンネルの中へと歩み始めた。
噂にしたがって横断に必要な60日分の食糧は持っているし、テント、電池やろうそくなどの装備は全てリュックに入ってる。
近くを歩く家族連れ3人とすぐに仲良くなった。
明るい少女と明るく会話を交わしながら彼女は暗闇の中を進む。
「お姉ちゃんはどこまで行くの?」
「アメリカ大陸。それから南のほう。ずっと、どこまでも行くわ。」
「私はNew Yorkまで。熊のぬいぐるみを買ってもらうの。」少女は笑った。
舗装はされていない。ごつごつと凹凸はあったが人の足で踏み固められた地面は歩きやすかった。ただヘッドライトの照らす地面と反対側からやってくる人間だけしか視界に入らないのは気が重くなる。
前を照らすと闇。
歩いてくる人々は皆、無言だった。
すれ違う人々に挨拶をしても、暗い顔のままで、会釈さえ返ってこない。
1週間、寝て起きて暗闇の中を歩く生活が続いた。
暗闇のなかで時間もなにも分からなくなった。
ある朝、寝袋から起きたKIRIに家族連れの父親が言った。
「俺たちはここまでだ。時間も光もわからない世界にはもう耐えられないよ。この子も怯えている。」
少女は母親にしがみつきながら泣いていた。
「南米まで行くんだろ?これをもっていきな。」
彼は自分達の帰りの分だけ残し、電池とロウソクをKIRIに渡した。
「お姉ちゃん。私たちの分も頑張って。」
少女が涙を拭きながら言った。
「あなたはあなたの分を頑張りなさい。お姉ちゃんはお姉ちゃんの分を頑張るわ。」
KIRIはそう言って笑顔を見せる。少女も少し微笑んだ。
KIRIはさらに進んだ。
石だらけの歩きにくい道になった。
ライトの光をうまく地面を照らさないと石につまずき転んだ。
すれ違う人の数は少なくなった。トンネルの反対側から歩いて来る人なんていない。引き返してくる人達だけだということは、もう分かっていた。
一人の壮年の男と一緒になった。2人は励ましあいながら岩だらけのトンネルを進んだ。暗闇のトンネルの中は過酷な世界だった。どこからか叫び声が聞こえたりした。寝ているとき、そんな叫び声が聞こえると男は怯えた。
そして、誰にも会わなくなった日、男はKIRIの寝ている間に電池もロウソクも全て持ち去り消えた。臆病な彼は暗闇の世界で歩く事に怯え引き返したのだろう。
「私はまだ世界の果てにはいない。ここは世界の果てではない。私は生きる。」
彼女は呟き、歩み始めた。ヘッドライトに残るバッテリーもすぐにつき、暗闇が彼女の周りを支配した。
トンネルの濡れた岩壁を手で伝いながら、進む。
もう誰にも会わない。
頭の中でいろいろな想像がかけずり回る。
「トンネルの天井が破れたら。」「誰かに襲われたら。」「こんな世界に価値があるの?」
想像を意思の力で押さえつけ彼女は進む。
「ここはただの海の底。私は私。私は進む。私は生きる。生き抜く。」
完全な暗闇の中、這い、伝いながら、少しずつ進むだけの5日間が過ぎた。
闇と静寂のなかでリュックを探り、食べたり寝るのは困難だったが、それでも彼女は世界の中で生きている事を感じていたし、自分の世界を信じていた。
混乱はあった。ただ信じるもののほうが強かった。
食糧がつきる前に、明るくなって来たトンネルの先に小さな光が見えた。
光はだんだん強くなり、眩しすぎる日光は彼女の視力を一時的に奪った。
目をつむり、手探りで歩く。今までと同じ。
カナダのセントジョーンズ近くの丘に開けられたトンネルの出口。
鉄格子が取り付けられている。
薄く瞼を開けると鉄格子の向こう側に詰め所らしい小屋が見えた。
彼女は小屋に向かって大きく声をかけた。
警備員が小屋から出て来て鉄格子の鍵を開けて中から出してくれた。
警備員が彼女の身体を支えながら声をかけた。
「2年ぶりだぜ。トンネルから人が出て来たのは。ライトも無しで、あの暗闇のなかを大西洋を渡って来たのかい?」
「だから、どうだっていうの。私はもっと過酷なときも生き抜いて来たのよ。」
「でも、一人だったんだろ?」
「孤独?私はいつでも孤独。でも支えてくれる人はいる。その人達が生きるこの世界は全部、私の愛するものよ。」
「わかった。わかった。ま、ま、とにかく休みな。」
警備員は詰め所のソファに混乱している彼女を座らせた。
KIRIは警備員が作ってくれた温かいスープを飲み、シャワーを浴び少し落ち着いた。
目が光に慣れた後、彼女は警備員に丁寧に礼を言った。
小屋のドアを開け、外に出た。
彼女はゆっくりと深呼吸をし笑顔を浮かべた。
南に向かい歩き始める。
こちらこそ、このような温かいコメントをいただいて恐縮であります。
しばらくお休みとのこと。
暖かくして、のんびりと過ごされてください。
いつも読むのとは違うジャンルの本を読むのも楽しいかもしれません。
もし、にコタで世界が広がったのであれば、世の中には、他にも世界を広げる方法があるのかもしれませんね。
わざわざコメントお寄せ下さり、有難うございました。
元気になりましたら、仲良くお付き合いさせて下さい。
お寒いのでお体お大事にお過ごし下さい。
文章がお上手なので、弟子入りしたいです。
又、いずれお便りさせて頂きます。御機嫌よう!!
その悪者クマのかぶり物。
大変お似合いです。
あったかそうです。
ついうか、超好みです。
今晩はお風呂でユックリあったまってくださいね。
トンネルを抜けてすぐ人が居て良かったよ。
温かいスープ、骨身にしみただろうね。
シャワーも生き返る気分になっただろうね。
温かいものって、有難いね。。。
いえいえ彼女は鋼鉄のように硬いココロではなく、希望と意志が強いのです。
苦しい苦しい闇のような体験をした。
孤独。
そう、孤独に耐えて、自分の孤独、孤独というか自分を信じられて、
自分に裏切られて、そしてもう一度信じて、世界を認めている。
そんな人って強くないですか。
人を信じるって、多分自分を信じられるから、できると思うのです。
燐音さんも、それだけいろいろ考えていて、自分に正直で、それでいて、そんなに魅力があるんです。
自分の強さに気づいていないだけじゃないですか?
大丈夫です。一歩一歩いきましょう!
60日の闇の中。
苦しくないはずがない。
でも、彼女の心は壊れなかった。
狂わなかった。
発狂、衰退、絶望、孤独。
孤独の中、〝支え〟があると信じられる信念はどこからくるの?
きっと、彼女は、心の底から信じているのね。
世界を・・・人を・・・
私には真似できない。
信じるものがある彼女が羨ましいな・・・