金狼の重圧…13
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/24 20:03:36
二人は病室を出る。その間際、バタフライはもう一度ウルフを見た。人形のように動かないウルフ。自分は何と戦うのだろう?そんな不思議な思いを噛みしめウルフから目を離し、病室を後にした。
ずっと暗いままだった病室にウルフが1人取り残されていたが、まもなく看護師の巡回が来た。
「あら?電気点けて無いじゃない。どうしたの?」
看護師が少し心配そうに明かりを点けても、ウルフに反応はなかった。反応は無かったが、ウルフの口元が微かに緩んでいた。無論、看護師が見落としてしまうほどの微かな変化だった。
病室の窓から見えた工場の廃墟へはすぐに着いた。ミカミが大きな工場には似つかわしくない小さな扉を開く。かなり大きな工場跡、中には何も無くがらんとしていた。
かつては、たくさんの人たちがここで仕事をしていたのだろう。そんなことも忘れられてしまいそうなほど、工場の痕跡は皆無だった。それに外も暗かったが、中はもっと暗く感じられ、不気味さを演出していた。
ミカミはバタフライに中へ入るよう手招きした。
「さあ、どうぞ」
真っ暗な廃墟に吸い込まれるようにバタフライは中へと入った。
程なくミカミは明かりを点ける。室内は本当に広かった。だだっ広い空間の真ん中当たりに、縦横3メートル、高さ2メートルほどある大きなボックスがあり、そこからコードが何本も出ていた。そのコードはボックスの隣に置いてある機器類に繋がっていた。
ミカミはそのボックスを指さす。
「これが答えだよ、バタフライ」
「…なんだこれは?」
一見しても何かは分からない。ボックスには入口らしきものが付いている、中に入るこができるようだ。ミカミは得意げにボックスの周りを歩き、歩きながらこの機械の説明をし始める。
「これは俺が開発したゲーム機だよ、EM対戦ゲームのね。このボックスの中に入りバーチャルでレースを体感できる代物だ」
「ゲーム機?これをあんたが?…これでウルフと走ることができるってことなのか?」
「そうだ、これにはウルフのデータが全て取り込んである。このゲーム機で対戦し勝つことができたなら、その時はウルフに勝った事と同じことになる」
ミカミの表情は何か挑戦的で勝ち誇ったようで、目を見開きバフライを挑発している。
「…」
「例の三人もこれでウルフと対戦したんだよ」
「…これでか…だからウルフとのレースを誰も見ていたなかったのか…」
「不満か?もちろんウルフの速さなどはこちらでは一切操作していない。ウルフの速さは忠実だ。それに君のEMに入っているメモリーチップで君のマシンのスペックを取りこむことも可能だ。それに中を見てみてくれ」
ミカミはボックスのドアを開けた、ちらりとEMのマシンが見える。それは見覚えのあるマシンだった。バタフライが乗っているEMと外観、ミッドパープルの色もそっくりだ。
「君のためにゲームに使うEMは君仕様の物に改造してある。かなり時間がかかったよ。とりあえず、今君が乗っているEMで対戦できるシステムになっているから安心してくれ」
バタフライはウルフとの対戦のタネを明かされても尚、訳の分からない恐怖が消えないでいた。
タネを聞けばゲーム機じゃないか…それほど不気味さは感じないはずだ。だが、ミカミの誘いに最後の承諾を返せないでいた。
「もし、これで負けてしまったら…本物のウルフに負けたことになるのだけれど、それでもいいか?」
バタフライはボックスのドアへ近づき、少し警戒しながらもう一度ボックス内を検めた。
だけど・・・・