木地雅映子復活! 〈マイナークラブハウス〉
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/07/16 01:20:42
買ったはいいが積んでいた『マイナークラブハウスにようこそ!』
2巻目の『マイナークラブハウスの森林生活』が出たので重い腰をあげやっと読んだ。
作者はあの『氷の海のガレオン』の木地雅映子。
たった一冊しか上梓されていないのに、忘れられない書き手として一部読者に記憶されていた。
十数年ぶりにハードカバーで2冊目が出て。
その後、文庫で続き物が出たから驚いた。
おまけに書評サイト等では(取り扱いに困った感じだが)ライトノベル扱いされているらしい。
何事? と思った。
そりゃ、出版元のジャイブ、ピュアフル文庫は『氷の海のガレオン』を収録作の異同はあれど再刊したり、『光車よ、まわれ!』(ある意味伝説的な和製ファンタジィ)を再刊したりと意欲的なレーベルである。
しかし、木地雅映子がライトノベル?
絶対何かある。重量級の衝撃が来る。
体力・気力共に地を這っているんで読むのはどうよ、としばらく置いといた。
で、読んで。
文章は軽かった。ライトノベルで通るだろう。
だけど。
変わってないやん、やっぱり。
文化部小説と煽りがついているけど、部活話が読みたいならお勧めしない。
愉快に奇矯に見える人物は、世間に馴れられぬ重いモノを抱えている。
マイナークラブハウスは癒しの場ではなく、『森林生活』の解説が推測したように、浮き世の風当たりから身を隠し自身を育てる雌伏の場だ。
「木地雅映子」を期待した読者は、最初不審に思い、第四話・第五話でやはり来たか、と実感した模様。
けど、個人的にはミツアキやぴりかの問題以前に、園芸部員・天野君が気になった。
天然とか、癒し系だとか評した人がいたけど、むしろ――気付かれずに放置された「火星の人類学者」タイプじゃないか、どれだけの齟齬のなかで暮らしてきたのか、と。
フィクションの登場人物に、診断の記述もないのに考えても詮ない。
だけど――あまりにも「らしい」。
文庫版『ガレオン』収録の「オルタ」でそっち系の問題に触れていたことも考えると、意識して書かれているように思える。
第七話のアレ、章題に「闇」なんて言葉を使うから心理的問題だと考えた人がいたようだが、どう見ても状況処理が追いつかなかった故のパニックだし。
そんな天野君が二次障害もなく生き延びているのは、傷だらけになりつつとことん付き合うユースケら周囲の人がいたからだろう。
(フィクションだし、現実はそう簡単ではないと知っている)
だが、やはり困難を抱えていたとおぼしいぴりかの兄は、すでに故人になっている。
親子関係がそう簡単でないとわかっていても、それでもぴりか達の母・かおりへの悪感情がおさえられない。
かおりもまた切羽詰まった上放置されていて、旦那は何をしてるのかと思うのだが(こちらの関係がまともなら、まだしもましな対応になったろうに)それにしても。
障害の可能性を指摘されて、あり得ない、莫迦にされたと激怒し、検査も受けずに『あまり困った事を言う時には、強く叱』る……
困難があるから、医療や制度で対応するのだ。
軽ければ療育で困難は軽減するし、重篤であればなおさら早い対応が有効だ。
なのに……どうしてそうなる?
現実でも似たような事象はある。
お子さんが元気すぎて受診を勧められた人が「個性の範疇なのに」と怒っていた。でも、大変だってこぼしてましたよね?
困難があるなら、疑いがあるなら、試せる策は使えばいいのに。
その怒りように、応用利くから対処法聞くのはありだよ、とやんわり勧めるのが精一杯だった。
感情がついていかない、対処が行き届かない、そういうことはあるだろう。
だが、親が認めた「普通」の範疇からズレるからといって“敵”認定された子はたまったものではない。
子どもの側からすれば『この世界は、あの人たちのゴミ捨て場じゃない』し『あたしたちだってゴミじゃない』のだ。
ネットで「大人や群れようとする子に厳しすぎる」という感想を見たが、今まさに自分を圧殺しようとしている相手に優しくしたら押しつぶされる。
現実ならそれでも子どもは親や集団に近づいて破綻することがほとんどだ。
が幸か不幸か、このマイナークラブハウスの中心の面々はそれを良しとできないほどに、対象からすでに離れてしまっている。
フィクションながら「生き延びてくれ」と祈るような気持ちになる。
滝の意中の人、天野君は(周囲の洗脳よろしく)過去の自分のような「畑の作物を盗る獣」の範疇にいる(と彼が判断した)ぴりかを人の領域に連れてくる責任を感じているし、親友同士と空気が読めない男の雲行きが、なんだか不安(そも彼に恋愛感情が理解できているかどうか)。
各人が抱える問題が、重い。
楽しみな反面、不安で仕方がない。
マイナークラブハウスに集う子どもたちに、どうか幸せな先行きがあらんことを。
つづき物のまだ導入です。
このシリーズに関しては、便宜上ライトノベル扱いされている、みたいな感じです。
ピュアフル文庫自体は、いわゆるヤングアダルトと呼ばれる作品が多いレーベルで。
居心地のいい娯楽「だけ」がほしいらお勧めできないけれど、きっと必要としている人がいる。
木地雅映子はそんな作家だと思います。
ライトノベルって読んだことなくて漠然と(表紙みると)愛と友情と魔法の本かなんかだと思ってたけど違うのか
けど村八分とかぜんぜんまだまだ世の中(会社やネット)に存在するんだって気づきました ほんと21世紀なのに!! さ