Nicotto Town


小説日記。


星と闇と、終わりの物語。【3】



Story1 - 2


冷静になろうとしてゆっくり熱い空気を吸い込むと、
すっかり焼け爛れたのどに鉄の臭いと熱気が通り抜け、鼻腔と口内に広がった。
しばつく目を閉じると、なんとかしてこの状況を切り抜けるために
必要なまじないを引き出しから漁る。
火には水を使えば良い。
でも、さっき家で読んでいたあのまじないは強大すぎる。
場所も、使うだけの気力も残っていない。
それにあんなものを使ってはいけない。
〝世界を終わらせる詩(ウタ)〟のほぼ全てが「まじない不文律」という
法律のようなもので使用を禁じられているのだ。
普通の人間が使って良いのは、上(レエン)、中(ヘイツ)、下(カルト)の三段階で
分類されたまじないのうち、中と下だけ。
上には〝世界を終わらせる詩〟をはじめ、
この世にあってはならない大災害を引き起こす「滅び」の祈りが込められているからだ。
使用しただけで死罪に値する、禁忌。
中と下にはそれぞれ「災い」、「恵み」の祈りが込められ、
中の示す「災い」は、人の世で時に起こる「豪雨」や「嵐」などといった自然災害の一種。
下の示す「恵み」は、自然災害レベルに達しないほどの「雨」や「火」、「風」を呼ぶ。
「火」、「水」、「雷」、「草」、「地」、「光」、「闇」、「空」、「命」、九つの源により構成され、
全ての「まじない」が記された《まじないの書》に、
それぞれの【章】で分類されたまじないの数は両の手ではとても数え切れないほどに及ぶ。
そして今、少年の住む街を焼いているのは
「火のまじない」、「精霊」の章・中、「大火」。
これに対して使って良いのは当然、中のまじないのみ。
考えろ、どうしたら消せるか。
火。消せるもの。水。押し流す?違う、消火。鎮火。降らす。水。

――「雨」、

はっと目を開ける。
脳裏に閃いた単語に反応して、勝手にまじないが浮かんでくる。
雨。雨を降らせば良い。
詠うのは「空のまじない」、「悲嘆」の章・中、「大雨(たいう)」。
天候を自由に操る事のできる、ちょっと変わったまじないだ。
果たして「大雨」で、「大火」を消すことはできるか。
――いや、相殺してやる。

少年は吸い込んだ息を一息で吐き、火傷だらけの両手を地面に突く。
乾いた灰が、手の下でくしゃりと潰れた。
軽く俯き、集中するために目を閉じる。
瞬間、詠うべき〝詩〟が溢れ出す。

「――祖は雨の神、豊作の女神よ。
     癒しの雨は荒地を潤し、草木に恵みを、人々に喜びを与えん。
     火には水を。緑を荒らす悪しき炎に、女神は悲しむだろう。
     降り注げ、嘆きの涙よ!」

枯れてなお、少年の声は凛と響く。
まばゆい薄青の霧が、ひざまずく少年の全身を包んだ。
そっと開かれた少年の瞳が、霧と同じ色に輝きを放った。
霧はやがて渦巻くようにぶわりと広がり、少年を囲む炎を一瞬で消し飛ばす。
じゅっ、と焼けた鉄が水を一瞬で蒸発させたような音が消えないうちに、
霧は閃光となって少年から迸り、空を貫いた。


真っ黒な煙がまばゆい薄青の閃光に貫かれ、ぽっかりと穴を開けた。
だがその穴が塞がらないうちに、大きな雫が次々に煙を貫いていく。
灰色だった空に、むくむくと爆発的な勢いで広がった雨雲は
あっという間に灰色を塗りつぶした。
大きな雫は落ちるごとに地面の灰を、濃く濡らし、散らして、弾けた。
やがて。
地響きのような雨音が森中に響き渡る。
燃え盛る「大火」が、降り注ぐ「大雨」に少しずつ、少しずつ消されていく。
消されては再び燃えあがり、また消される。
くり返すほどに辺りには、さながら靄のようにもうもうと水蒸気が立ち込めた。
そうしてあっという間に。
焦げた臭いが、まだ濃く漂う。
けれど火は消え、雨も止んでいた。
異常なまでの静けさに包まれて、焼け残った木の枝からしたたる雨水が落とす
雫の音が、やけに大きく響いた。
燃えてしまった森は、死んだようにその焼け焦げた姿を晒して。

一つ。取り残されたように。

無傷でその家――少女の家は、そしてそこに、あった。



*****

下書きから直接修正を加えながら打ち込んで、
製作時間、ざっと一時間。


>つ、疲れた!かっ


さあ、いよいよサーヤを助けに行こうか。
引き続き、コメントいただければ幸いです!


アバター
2012/11/05 22:25
>かな

あ、どうしようなんか恥ずかしいありがとう!ry
今回は台詞より行動に力を入れてみました、そう言ってもらえると嬉しい限りです//

ありがとう//!
私もペテン師で大人になれたはずなんだけどねw、
まだまだファンタジーから卒業できませんでしたっ!wwww


ふおお頑張って書かなきゃ!ww
アバター
2012/11/05 21:45


ク―姉さんんんんんんん

1からじっくり読ませていただきましたっ。
「凄い」の一言で、多彩な表現に圧倒されました。

いつもはもう少し、大人というか…そっちのほうも大好きなのですが、
クー姉さんの作品で今回のように、「まじない」のようにファンタジー要素がたっぷり詰まってるのも素敵です//

また、きますwwww
アバター
2012/11/03 22:52
>あやかさん

一応、どこかに応募したいなー、なんて淡い気持ちを抱きながら書いてますw

それはいけないwww
ごめんなさいいやもとい!


きゃ、ありがとうございます//!
アバター
2012/11/03 18:54
やっぱ糾蝶さんの文章力にはかないませんw
ノベライズ化してほしいw

なんか読んでるうちに引き込まれちゃって、
今自分がなにやろうとしてたか忘れました←


とにかくこの作品好きです(
応援してますb



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