『都会のアリス』を追いかけて ヴッパタールその1
- カテゴリ:レジャー/旅行
- 2012/11/02 05:01:20
10月28日日曜日、
ドイツではこの日の深夜3時に、
夏時間から冬時間へと移行します。
でも、この移行は、
1時間多めに寝ていればいいだけなので、
さしたる問題はありません。
問題は…
冬時間になった途端、
いきなりグンと冷え込んで、
真冬になったこと。
この日は、8時に宿を出て、
まずは、ヴッパタールというルール地方の都市へ向かいます。
ヴッパタールは、日本の旅行ガイドにまず乗っていません。
ですが、この街は、是非訪れてみたかったのです。
なぜか?
それは安寿が、
ヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』という映画を
とても気に入っているからなのです。
ヴィム・ヴェンダーズ監督と言えば、
『パリ・テキサス』『ベルリン天使の詩』
そして『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』などの作品で、
ご記憶の方も多いでしょう。
その彼の初期の作品、
そして彼がロード・ムービーの作り手として、
その名を高めることになった最初の作品がこれ、『都会のアリス』
カラーになってからすでに久しい時代であったにもかかわらず、
あえて白黒フィルムで少人数のスタッフとキャストで撮影した低予算映画。
物語も実にシンプル。
アメリカを取材しながら
何も記事が書けないでいるフォト・ジャーナリストがドイツに帰国する折、
とある母親から10歳ぐらいの女の子「アリス」を預かり、
母親とは別に、先にドイツへ連れて帰ることに。
ところが、ドイツの空港は全面ストで、
オランダのアムステルダム空港に向かい、
そこからドイツへ列車で移動するしか交通手段がない。
そこでともかくも先にアムステルダム空港へと飛び、
そこで母親の到着を待つのですが、母親が現れない。
仕方ないので、アリスの曖昧な記憶を頼りに、
ドイツの地方都市を「おばあちゃん」の家を探して歩くことに。
ところが、アリスは、おばあちゃんの家がどの街にあったのか思い出せない。
フォト・ジャーナリストは、電話帳をめくりながら、
ドイツの都市の名前を次々に読み上げていくのですが、
アリスはそんな名前、聞いたことがない。
電話帳のリストも最後の方になって、
半ば諦めていた時、
アリスが、ある都市の名前に怪訝な顔をします。
「Wuppertal(ヴッパタール)?」
アルファベット順で言えば、WUは最後の最後。
そして、アリスとフォト・ジャーナリストは、
「おばあちゃん」の家を探すために、
ヴッパタールへと向かうのです。
ヴッパタール。
小川と言ってもよいヴッパー川の谷間(タール)に細長く続く街で、
この街は映画を撮った時代も、
私が訪れた現代も、
ルール工業地帯特有の労働者の街という雰囲気でした。
ですが、この街の魅力は、
世界最古のモノレールが、
ヴッパー川の上を走り抜けていること。
「アリス」とフォト・ジャーナリストは、
このモノレールに乗り、街を見下ろしながら、
「おばあちゃん」の家を探すのです。
そして結局見つからず、
夕暮れにモノレールを降りて、
モノレールが頭上を通過していく通りを歩いて、
その日のホテルを探すのでした。
この映画は、
話に大きな盛り上がりがあるわけでもなく、
ただ淡々と、
アリスとフォト・ジャーナリストの奇妙な旅が綴られます。
ですが、ともかく絵が美しい。
そして、そのバックに流れる単調な音楽がせつない。
「おばあちゃん」の家が見つからなかったガッカリ感も相俟って、
この映画の中で描かれるヴッパタールは、
どことなくせつない感じのする街でした。
さて、ケルンからヴッパタール行きのローカル電車に乗って、
郊外へと向かえば…
あ…、霜が降りている。
線路脇の打石だけでなく、
広大な野原一面に霜が降りています。
ドイツは冬時間に移行したこの日、
本当に凍てつく冬へと移行したのでした。
日曜日に工業地帯へと向かう電車が混むはずもなく、
私以外に数人を乗せた車両は、
ライン川沿いのケルンの平地から、
なだらかな牧草地が続く丘陵地帯へ、
そして1時間弱で谷間に広がる街ブッパタールへと到着したのでした。
続く。