Nicotto Town



【小説】成田くんと久保寺さん

第一話(全三話)

高校の入学式の翌日に何故か妹が金魚を飼い始めたという理由から、なんとなく入部した生物部で一緒になった小沢に釣りを教えて貰った。
家で犬、猫、亀、小鳥を飼っていて、動いてるものなら何でも好きだという小沢は、次はハムスターを飼おうと画策していた所を彼の大学生の兄である秀明さんにちょっと待てと止められた為に学校で飼うというミラクルな発想で生物部に入部した男である。
弱小な上にヲタク呼ばわりされるような生物部に所属しながらもアグレッシブな行動と巧みな話術で幅広い交友をクラスの中で構築した彼は隣のクラスであった。
と、いってもボクらの学年は四クラスしかない。

小沢は友達が多い割には、休日になると部活の課外活動という名目で、
『コーヘー、明日は釣りしようぜ』
とボクを誘ってくる。比較的のんびりした性格を自負しているボクは、のんびりと釣りをするのはお気に入りの休暇の過ごし方となった。
もっとも、釣りの腕は全く上達しない。
『釣りはさぁ、俺みたいにせっかちな方が上達するんだぜ。釣れるポイントをどんどん狙っていくからな。釣れない所で糸をいくら垂らしても駄目だ』
と小沢はボクに言ってくれるけど、ボクとしては釣りをしながらのんびりと過ごすという、この空間全体が好きなのだ。
『コーヘーらしいちゃ、コーヘーらしいよな』
釣りをしている時、というか大抵のボクと小沢の会話は、一方的に色々な話を彼がしてそれに対してボクがうんとかあぁなんて答えてる事が多い。

勉強に対しては二人とも同じようなレベルなので会話に上がって来ない。但し、歴史や仏閣に関しては唯一、ボクが小沢に教えられる事だ。
『神社めぐり?じじいじゃないか。もっと今時の若者らしい事をしたらいかがかな?』と若者らしくない言い回しで全否定された事がある。趣味を押し付けるつもりは無いので問題はない。
普段の会話なら問題なけど、女の子の話題をふられると少し困る。それでなくても他人の名前と顔を覚えるのが得意でない上に、図書委員の須藤さんって可愛いと思わないかと言われてもその須藤さんが誰だか解らない。

だいたい、自分のクラスの女子の名前だってあやしいのに隣のクラスの図書委員なんて知らないよと言ったら
『え?俺はコーヘーのクラスの女子は全員知ってるぞ?』
とまるで知らない方がおかしいといった顔をされた。
こんな感じでボク、成田航平と小沢とは思考がまるで違うだが妙にウマが合う友達同士だ。
ちなみに、小沢の下の名前は直樹と言う。
『俺の事は小沢と呼んでくれ。下の名前で呼んでいいのは家族とこれから出会うであろうマイ・スィート・ハニーだけさ』
と初めて会った時にそう言っていた。でも小沢はボクの事を下の名前のコーヘーって呼ぶ。もう慣れちゃったけど。


そんなこんなでボクは2年生になった。
今思うと、彼女をはっきり見たのはその時が初めてだったと思う。

ボクの通う緑川高校は、1年から2年でのクラス替えは無くスライドで学年があがる。だから小沢とも去年と同じように隣のクラスとなった。
小沢は1年生の時に3か月間同じクラスの木村さんという女子と付き合った。何度かボクも含めて学校帰りにお茶をしたことがある。
しかし小沢と木村さんは色々あって付き合って、ボクには良く解らない理由で別れたのだがその件は今はやめておこう。ともあれ木村さんはボクが隣のクラスで唯一、顔と名前が一致する女子なのだ。

その日、2年になったばかりの4月に忘れてしまった現国の教科書を小沢に返しに隣のクラスに出向いた。
クラス替えは無いが4月ということで、あえて出席番号順に並んでいる中、小沢より先に木村さんと目があった。
『あれ?成田っち。どったの?え?ナオに教科書を借りたの?めっずらしー。あれ?ナオどこ行ったのかな?』
小沢の事を今でもナオと呼び、ボクの事を成田っちと呼ぶ木村さんは『あれー?ナオー?』と言いながらクラスを見渡していた。

ボクも一緒に見渡そうとした時に木村さんんの席の後ろの女子が読んでいた参考書を静かに閉じて立ち上がった。
長い黒髪の整った顔立ちの女性で、確かに去年からこのクラスにいるであろう女子なのだが案の定ボクの脳みそは彼女の名前を全く記憶していない。
でも、何故かひきつけられた。その顔の造形ではなく、本を閉じたしぐさとその指先にボクの目が止まったと言った方がいいのだろう
時間にしたら1秒も無かったと思う。でも、ボクとしたら珍しく彼女の後姿を目で追っていた。

その目線の先に廊下から部屋に入ってくる小沢を見つけた。どうやらトイレに行っていたらしい。そしてボクより先に木村さんに向かって話し始めた。
『こらユリカ。俺の事をもうナオって呼ぶなよ。俺たちはもうなんでもないだろ?』
『ナオだって私の事をユリカって呼ぶじゃん。それにもうナオって言い方で慣れてるから今更なんて呼べばいいのよ』
『小沢って言い方に戻すんだな』
『何言ってるのよ。じゃぁナオはユリカ様って呼びなさい』
『俺はイイんだよ』
『つーんだ。じゃぁ私もイイもーん』
余談であるがこの二人はこの後、体育祭の頃(6月)に結局また付き合い始めて、今でもケンカしぃしぃ仲が良い。
この前は『女の子って、ギュウってするとすんげぇ柔らかいんだぞ』と教えてくれた。どうもありがとう。この調子だと、将来初めてキスをしたなんて報告があったら2時間ぐらい細かく教えてくれそうだ。

兎に角、この時はさっさと借りていた教科書を返して自分のクラスに帰るつもりだったので、二人の会話が終わる頃を見計らって教科書を手渡ししようとした。すると、小沢がボクの肩をグイっとよせてすこし小声で耳打ちした。
『めずらしいな。コーヘーが女の子の興味を持つなんてさ』
ボクは小沢が何を言ってるのか解らなかったが、彼は続けて話はじめた。
『コーヘーもやっと女性に興味を持つようになったか。うんうん、良い傾向だ』
いや、そんなんじゃないんだけど。
『コーヘーが女の子を目で追うってだけでもすごい事だと思うね。まぁ俺だから気づいたんだろうけど』
そうだね。ボク自身も言われなければ目で追っていた事は気づかなかったよ。
『というか、彼女の事知らない風だけど、俺たちと少なからず関わり合いがあるんだぜ?』
うん。隣のクラスだけどボク自身は彼女とは認識ないよ。なのに関わり合いがあるって?
『彼女、園芸部員の久保寺だぞ』

ボクと小沢が所属している生物部と園芸部は部活としては別であるが顧問はどちらも松野先生である。動植物でひとくくりという事であろうか。
どちらも弱小クラブなので人手が足りない時はお互いの部員が手伝いをしあう事が多い。
でも、ボクは園芸部員の中で先ほどの久保寺さんを見かけた記憶がない。
『まぁ、俺たちはいつも力仕事を押し付けられて、校舎の裏で土を運んでいることが多いからな』
と小沢が言った。そういえば園芸部のお手伝いの後は腰が痛いという事ばかり思い出す。

でも、彼女が園芸部と聞いて一つはっきりした。なぜ、しぐさや指先に目が行ったのかを。
彼女の指先には何かを成し遂げる意志というか、そういったものを感じたんだ。そう、こういうのを凛としているっていうのかな。純粋に憧れるよね。
小沢はちょっと驚いたような顔をして
『どうしてコーヘーはそういう恥ずかしい事を平気で言えるかなぁ』と半ばあきれながら苦笑していた。

つづく。


アバター
2012/10/24 19:32
いやいやーだんだん吸い込まれる文章で疲れた頭にはいっぶくの涼風でしたー
(ノ゚ο゚)ノ オオォォォ-
あと二回も読めるのかーこちらの文体ならなんぺーじでもよめそうだァー
❂❂❂
アバター
2012/10/24 19:02
語りかけるような口調
すごくきれいな文章になっています

アバター
2012/10/24 18:22
お疲れ様でした!
三話も読めるのですね~♪
続きも楽しみにしておりますw
アバター
2012/10/24 17:24
はよ、続きლ(◉ืൠ◉ืლ) カモン
アバター
2012/10/24 17:01
えーっとですね。
元々、友人の千文字小説のB面をお遊びで書いたんですよ。
そこにチラっと出てくる先輩の二人を主人公にした小説を書こうという事になりましてね。
女性(久保寺さん)サイドはすでにUPされております。
そこで、さらにその女性のB面の男性(成田くん)を主人公にした小説という課題でございます。

すみません。
文字数がとんでもない事になりました。
しかも、余計なキャラも出てくるし。

そんなわけで、三話に渡るお話をダラダラと書いていきます。
小説っていうより羅列ですな。

今おもったんだけど、B面の方がやっぱり大変な気がするんですけどー?
そんなわけで長文ですが、ご興味あったらどぞw




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