Nicotto Town


小説日記。


抱えるもの。【グリモワ】

#-空っぽの笑顔



 ほら、すぐ後ろにいるじゃないか。

 ずっとずっと、僕を苛む幻想が。


「 助けてよ…… 約束 したじゃない 」


 でも振り返ったら戻れないような気がしていた。

 僕には僕の「現実」がある。

 見失わないように泳ぐのは逆流を遡るような、大変なことだったけど。


 僕が何もかも嫌になっても、

 僕が意味も無く影に怯えて引き付けを起こしても、

 僕が空っぽになっても、



 ――君だけはずっと傍に居てくれた。


 僕にとりつく幼馴染みの影は、僕の後悔から産まれたんだって教えてくれた。

 僕はまだ後悔してるのかな。

 黙っていると影が僕の耳元で同じことを何度も何度も何度も何度も囁くから、

 笑うことにした。

 楽しくなくても、辛くても、痛くても、笑っていようと思った。

 僕の怯えに忍び込んでくる影を遠ざけようとした。

 心から笑えなくなっても、笑うことにした。

 空っぽの笑みでも良いから、笑うことにした。

 君はそれでもいいって言ってくれた。


 君と契約したのは、

 誰一人守ることの出来ない僕の魔力を喰い潰して、

 殺してもらうためだった。

 
 魔石が無いとロクに魔術も使えない、ガラクタの僕を壊してもらうためだった。

 僕は弱すぎた。

 幼馴染みを守りたいなんて自惚れるには、弱すぎたんだ。

 だから、

 自殺なんかしたら意味が無いんだ。

 君に報いる為に僕も戦いの最中に死にたかった。


 君一人だけで僕はもう、気を抜いたらすぐに壊れてしまう。

 影が僕を喰い尽くす前に、君に僕を喰って欲しい。


 この世界で唯一僕の味方で居てくれる

 君にまで嘘を吐いて繋ぎとめてるんだ。


 改めてお願いしたら、訊いてくれるかな。

 訊いてもらえなきゃ困るけど。

 だって、その為に喚んだんだ。

 ――僕の願いを叶えて。



 いつか空っぽの笑みさえ、浮かべることが出来なくなる前に。


***

いつかヴィーチェと幼馴染み編も書いてみたい。





月別アーカイブ

2022

2021

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.