Nicotto Town


小説日記。


少年と嘘が大嫌いな悪魔(少女)。ⅰ




 ――あたしは嘘が大嫌いだ。
 単純に嫌いというわけではないが、それはまだ伏せさせてもらいたい。
 一体どんな了見で"あたしに対して"嘘を吐くのか、
 つくづく人間という生き物は理解に苦しむ。
 理解する気も無いが。
 あたしは人間と契約する時に、「 嘘を吐かぬと誓うか 」と必ず訊いてやるのに、
 人間は"誓い"の意味が解っていないに違いない。
 絶対にと言い切って良いほどに、人間はあたしに嘘を吐く。
 叩き斬ってやるまでだ。
 訊くに堪えぬ恥の塊のような言い訳など訊くたくもない。
 …調子に乗るなというのだ。
 そもそもソロモン72柱の1柱、35柱のマルコシアスといえば、
 "嘘"が禁忌とされている悪魔としてそこそこ名が通っているはずなのに。
 そんな下調べもせずに人間はただ悪魔を喚び出しているというのなら、
 あたしたちを舐めるのにも程があるというものだ。
 よもや忘れていたというわけでもあるまい。
 それともあたしが女だからと言う理由で舐めているのだろうか。
 人間一人くらい、素手で圧し折ってやること造作も無いというのに、
 人間は悪魔と言う存在を甘く見すぎているようだ。
 召喚したのだから、召喚した側が格上だなどというのは都合の良い妄想に過ぎない。
 人間があたしたち悪魔を押さえつけ、絶対的に上に立てる力がなければ、
 あたしたちはいつだって逆らう事が可能なのだ。
 それこそ、眠っている間に喰ってやる事だって、
 気に入らないことを言ったからなどという単純な事が理由だとしても、
 あたしたちはいつでも人間を"捨てる"ことが出来る。
 人間が一番偉いなどという妄想は早急に捨て去ってもらいたいものだ。

 そんなわけであたしは、今まで下らないにしてもなんにしても、
 あたしに"嘘"を吐いたマスターだった人間を斬り捨ててきた。
 嘘を吐いたら殺してやるとご丁寧に警告してやっているのに、
 人間は切羽詰ると"つい"、口から出任せが出てしまうようだ。
 なんて愚かなのだろう。
 …それが人間か。
 ああいや、勿論見境なくバッサバッサと斬りまくっているわけではない。
 そういう馬鹿な人間だけだ。
 人間が悪魔を道具としか思わないように、
 悪魔にとってもまた人間は美味しい餌なのだが、
 あたしはあまり魂を喰らうのは好きではないので、
 マスターになった人間以外は基本的にどうでも良いと思っている。
 人間を何も出来ない下等な生き物として見下しているのには、変わりはないが。

 
 ………それにしても。

 戻ってきたばかりなのに、今日は何だというのだ。
 またあたしを喚ぶ声が聴こえてくる。
 …どうでもいいが、ダンタリオンは珍しく召喚に応じたらしい。
 ついさっき戻ってきた私と擦れ違うように地獄から姿を消すのを見た。
 ここ数百年、頑なに召喚を拒み続けてきたのに一体どのような風の吹き回しか。
 だが…ダンタリオンの真似をするわけではないがあたしも今度こそは悪いが無視させてもらおう。
 流石に出戻りなんて疲れる。
 それに、前言撤回。
 運が悪いとダンタリオンと戦わねばならないかもしれない。
 近接型のあたしとは、ダンタリオンの物理魔法攻撃とは分が悪いのだ。
 契約した人間の魔力が弱いと、
 二振りの巨大なブレードを振り回すしか出来ない。
 しかし、あたしを制御下に置くことのできている人間ならばその限りではない。
 悪魔である以上、人間などと比べ物にさえならない身体能力を持っているが、
 そんな人間であればそれを格段に底上げすることが可能になる。
 早い話が、物理魔法を叩き斬って防ぐ事も可能になるわけだ。
 魔力が弱い人間だとこうも行かないので、
 あたしとしては魔力の蓄えに自信がある者だけに喚んで欲しいと常々思っている。
 戦闘中に倒れられては溜まらない。
 下手をするとあたしが魔力を食い潰してしまうことも在り得、
 その場で強制的に契約解除という苦い経験もある。
 嘘を吐いたわけでも無い人間を殺してしまうのには流石のあたしにも罪悪感があるというものだ。
 …そんなわけで、あたしを喚んでいる声に応えてやるべきか若干悩んでいる。
 ダンタリオンだけでなく、下手をすると第2柱のアガレスとも戦闘するハメになるかもしれない。
 出て行ったのは確かあたしが戻ってくる前…何年前だか忘れてしまったが、
 戻ってきていないという事は確実に人の世に渡り出ているということだ。
 それに、もしかしたら"あいつ"にも遭うことになるかもしれない。
 …ずきりと、もう塞がっているはずの顔の傷痕が疼いた。

 ちなみに――あたしたちは同じ穴倉の生き物だがあまり仲が良くない。
 悪魔には悪魔の世界がある。
 伯爵だの公爵だの、あたしにとってはどうでもいいことだが、
 大切にしている連中もいるということだ。
 どうか察して欲しい。


 そうやって頭の中で延々と思考を巡らせていると、不意にその時。
 足元が突然消えるような強烈な目眩に襲われた。
 溜まらずぐっと足を踏ん張って堪えるが、
 次に襲ってくるのはどうしようもない浮遊感。
 声をあげる間も無く視界があっという間に闇に染まり、
 得体の知れない空間に放り投げられたような寒気が背筋を這い登った。
 ぞわりと全身の毛が逆立つ。
 …あたしを、引き摺りあげようというのか。
 人間如きが、悪魔を強制的に地獄から引き摺りだし従えようというのか。
 ――面白い。

「 …はッ。はっはっはっは…あっはははははは!!

 良いだろう!応えてやる!!
 あたしを無理やり従えさせられるものならそうしてみろ!
 この首に首輪つけられると思うなよ、人間風情が!!! 」


 あたしは本当に久々に笑っていた。
 腹の底から溢れてくる"愉快だ"という感情を抑えられない。
 同時に無性に腹が立った。
 だがそれ以上に笑いが込み上げたのだ。
 こんな人間、今までに初めてだ。
 胡麻のように小さな白い出口は、まだ遠い。



*****

こんばんは、悪魔シリーズ二作目です。
今回はマルコシアスが主人公になっています。
ジューダスという名前ですが、本作では名前を出すに至りません…
ちなみに前作のダンタリオンはカナンという名前でした。

引き続き、よろしければご感想下さい!
アドバイスとか、読みにくかったとか解りにくかったとか、
凄く有難いです…!


あと思ったのですが、途中で私、キャラの服装の説明を入れようか悩んだんです。
…でも入れるところねーな(笑)
と思い、なんだかキャラのイメージがおぼろげになってしまっているかと思います。

次でそれには挑戦してみようと思っているので、
今日はこんなところで。

ここまでお付き合いしてくださったあなたに、最高の感謝を。

アバター
2012/09/10 17:52
あああああああああああ・・・。

私はこれから先、何十年後も何百年後でも糾蝶様の小説は超えられないだろうな・・・。
なんか読んでてトリハダが^p^

悪魔とかって私結構信じるタイプなんですよねー
幽霊とかはまあ・・・信じないけどw

ギリシャ神話もソロモン72柱と似ていて好きです!

ああああああああああああああああああああトリハダが止まらない(


・・・よし、meijiのチョコパイでも食べて落ち着こうか。
アバター
2012/09/08 23:01
>ティキさん

こんばんは!

毎度ありがとうございます!
コンビニの店員じゃありませんよ!(爆
アバター
2012/09/08 22:08
コメントありがとうございました^^*
心理系も面白いですよね><心理系大変そうみたいですけどw授業がw
一度心理系の授業受けたことあるのですが、ややこしいったらw
とまあそれはさておき、一度読んだだけなので内容までは触れられないのですが(文字数の関係もありますしw)
率直に気付いたことを、僭越ながら述べさせていただきます><

まず基本的なところなのですが、漢字の多さです。
ついつい漢字を使いたくなるのはわかるのですが、
文章が硬くなるうえに、何でも漢字にしてしまうと読みづらいという難点があります。
今回の短編は文自体がまず硬い上に、口語体でありながら普段私たちが使っている言葉とは少し違う文章です。
ただでさえすんなり入ってきにくい言い回しがされているのに、漢字だらけでは、文章が上手く入ってこないかと思います。
さらに、漢字の使い方も微妙なところがあります。
まず「たまらない」ですが、「溜まらない」は誤字です。
そんなことされてはたまらない、などの「たまらない」を漢字にするとしたら、「堪らない」になります。
次に「魔力が弱い人間だとこうも行かないので」の、行かないので。これは普通ひらがなですね。
ひらがなで文章を書くと読みづらいのではないか、と思うこともありますが、
読み手にしてみるとそんなことはありません。漢字とひらがなのバランスを考えるだけで、ぱっと読みやすい文章になると思います^^

あと、 「それに、前言撤回。」の文章ですが、何が前言撤回なのかわかりませんでした。
だいぶ読み進めてからやっと、何が前言撤回なのか理解できる回りくどい文のならびになっているように思います。
また、「…それが人間か。」「………それにしても。」「…どうでもいいが、ダンタリオンは珍しく召喚に応じたらしい。」などの、三点リーダ。三点リーダは……の二つで1セットが本来の使い方です。
話の転換に三点リーダを使っていますが、この文章に三点リーダはいりますか?
これは私の美意識なので流し読みでいいのですが、
沈黙や思案に使うことも多い三点リーダですが、三点リーダはただの記号で、文章としては何も描いていません。記号を使わず沈黙を文章として描いたほうが、迫力や雰囲気はずっと伝わると思います。

長々とすみません><
なにとぞ参考程度に;;
アバター
2012/09/08 21:36

今回も楽しんで読みました✿

続きまってます(*^_^*)☆




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