少年と本好きの悪魔(少女)。【短編】ⅰ
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/06 22:55:49
また私を喚(よ)んだ物好きがいたらしい。
最初は無視していた。
小面倒臭い。
どうせ私を道具としてしか使わないのだ。
…人間なんて嫌いだ。
放っておくとすぐに調子に乗る。
放っておかなくても調子に乗る。
私が一度でも黙って言う事を訊いてやると、人間は主(マスター)として、
私を従順なペットと勘違いして急に偉ぶり出すのだ。
その気になれば容易く殺してやれる事、人間は知らないらしい。
悪魔は人間に逆らわないと勝手に思い込んでいるのだ。
馬鹿らしい。
召喚されたとて、私たち悪魔の方が人間など比べるに値しないほど強く、優位に立っているというのに。
…………しつこいな。
さっきからずっとこの調子だ。
飽きもせずに私ばかり喚び続けて疲れないのか。
今日だけでもう七度目だ。
確かに魔方陣は間違えていないし召喚に必要な道具も全て揃っていて、
呪文(ルーン)にも何の欠落も誤りも無い。
…出てきてやるべきではあった。
今時ここまでクソ真面目に召喚の儀を行う人間なんて滅多に居るものじゃない。
少なくとも私は今までに出会ったことが無い。
だがやはり面倒だった。
ソロモン72柱の悪魔として地獄に閉じ込められているのに飽きていたのは事実だが、
人の世に喚ばれてもどうせ道具としてしか使われぬのなら、
他の悪魔たちが私だけを残して出払っていることにも何の感情も抱かない。
羨ましい?
いっそ気の毒だ。
行くだけ無駄と言うものだ。
捨てるほど有り余る時間だが、あんな生き物の為に時間を削ってやる義理など無い。
いっそ地獄で、覚めぬ眠りについてしまおうか。
…それも良いかもしれない。
それは"死"というものとは違って、本当に冬眠みたいに眠るのだ。
「ソロモン72柱の悪魔」として空席扱いになって、人間に喚び出されなくなる。
今私を熱心に喚んでくれている人間には悪いが、決めた。
眠ろう。
そして終わらぬ追憶の夢を永遠に見続けるのだ。
私はいつも肌身離さず抱いている、画板ほどもある分厚い本をおもむろに閉じた。
…ああ、せめて私を喚び出そうとしている馬鹿な人間の顔、拝んでおいてやろうか。
召喚に応えたフリをして気に入らなかったら喰ってやれば良い。
鬱陶しい喚び声を最後まで訊きながら眠りにつくのはご免だ。
ところで――喚ばれたら必ず応えねばならないと思っていたが、
どうやらそれは此方の意志で勝手に決めてしまって良いらしい。
強制するほどの力を人間が持っていなければの話だが。
そして今私を喚んでいる人間には、そんな力は無いようだ。
ここ数日、熱いマグマ煮え滾る地獄に一人本読む私の頭の中に延々と響いていた声音に、初めて耳を澄ます。
ぼんやりと、声というより音に近い、靄のかかったようなその声色は、
どうやら男のものであるようだった。
また欲に塗れた馬鹿男であろうか。
どんな性格なのか容易に想像がつく。
ふわりと、足元が消えて地獄の風景が黒に染められていく。
私の身体が黒だけの世界に呑まれ、そして徐々に声がはっきりと聴こえて来る。
必死に何かを求め、乞い、縋るようなその声音は、今まで聴いてきたどの声とも違っていた。
欲に塗れていない、澄んだ声音は初めて訊いた。
見上げた暗闇の遥か彼方に浮かぶ、点よりも小さな出口に向かいながら私は…
…少しだけ、高揚しているようだった。
*
大抵の人間は、魔方陣も道具も呪文も全て適当で、
明らかにそうと解るどうしようもなく欲に塗れ汚れきった者たちばかりだった。
私は気づくと此処に居て本を呼んでいた71柱の悪魔で。
人間の喚ぶ声に、最初は逆らう事が出来なかった。
初めて聴こえてきた声に大いに戸惑い、思わず返事などしてしまったものだ。
どうしていいのか解らないまま声を訊き、やっと、やっと地獄から出られると私はそれしか考えていなかった。
欲に溺れた人間は、どこまでも最悪だった。
大いに落胆したのを覚えている。
その人間の雄は最初こそ私を恐れるような顔と態度を見せていたものの、
しかし私が言われたに対し忠実にこなしてくる従順なペットと勘違いし出した頃から――変わった。
私に敬意を払ってくれなくなった。
私を畏れなくなった。
…私はそこで、男を叱り命令に逆らうべきだったのかもしれない。
例え地獄に堕とされようと、甘やかすべきではなかった。
私は地獄に戻りたくない、ただその一心で、逆らったら契約を破棄すると執拗に釘を刺す男に従うしかなかった。
だが。
私は自分から、契約を破ってしまった。
もう何度目だろう、「 あいつを消してくれ 」と頼まれるのは。
私は呆れた。
私はヒトゴロシのための便利な道具なのか?
もう嫌だった。
私は道具でしか無いのか、と改めて自覚したとき。
男がたまらなく憎くなった。
だから喰ってやった。
頼まれた人間を命令通りに消してきてやって、いつもみたいに私は言うのだ。
「 終わったのです、マスター 」
…男は、「そうか」と一言。
机に向かって、私が与えてやった札束を嬉しそうに数えながら振り向きもせずに答えるのだ。
地獄に居るよりも退屈な作業だった。
そしてあり得ないほどに苛立った。
もう限界だった。
私は抱いていた本を開いて、ある一ページでバラバラと捲れていくページを手でそっと止める。
ヘブライ語で綴られた文字の羅列は、私が指で優しくなぞってやると淡く紫色に輝き始めた。
そして―――、
ぼんっ、と。
大量の火の粉が吹き散った。
紫色をしたそれは、男の持っていた札束に、
机に椅子に床にベッドに数え切れないほど積まれていた金銀財宝に激しく燃え移り、燃え上がった。
ソロモン72柱の1柱、71柱のダンタリオンが召喚者に見せるのは――幻覚。
そう、全ては幻だ。
男の身の纏う豪奢な服も、煌びやかな部屋さえも、全て幻。
私が幻覚で作り出し与えた金で買ったモノは全て、全て偽物として消えるのだ。
召喚者がそれを幻覚と気づかずにダンタリオンに敬意を払い続ければ、
召喚者はこうして裏切られる事など無いのだ。
…私は酷く、冷たい顔と視線を向けていたに違いない。
紫色の炎は部屋から、広い屋敷全体に広がっていく所だった。
マスターは自分を焼く炎を必死で振り払おうと半狂乱で喚き叫んでいた。
私など、もう目にも入っていなかった。
轟々と燃え上がる炎に、視界が埋まっていく。
私は何も感じてはいなかった。
…そして私は、その炎が全てを呑みこむ前に――地獄へと堕とされるのだった。
*****
なんということでしょう、文字数が足りない…だと…
既に原文が書きあがっているだけに無性に悔しい
えーそんなこんなで、台詞が一つしかない小説というのに挑戦してみました。
文章だけでいかに伝えられるか、という物書きの試練のように思います。
明日はこの続きから行きたいと思います。
頑張って書いたのでよければ感想欲しいです…!
――歯医者に行くことをお勧めします。←
目が腐らないと良いですねうふふ
私の中ではちょっと珍しいですw
良かった!ありがとうございます*
おー、ペルソナですか
私は完璧に独学ですw
七つの大罪も好きだけど、やっぱりソロモンの方が好きで…
七つの美徳も大変に魅力的なのですが、(ry
(アゴが外れそうでs←)
台詞少ないのに文章だけって珍しいですね!
でも読みやすかったです!すらすら読めました!
来ましたソロモン(
ソロモンとかそっち系の悪魔はペルソナで覚えた私^p^((
こんばんはー´`*
ツンツンツンツンデレツンな推定600歳くらいの女の子です…ぐへへ(ry
久しぶりにちょっと長めのをねw
でも後一個で終わりなのです/(^Q^)\
もし続きが…という声が一つでも訊けたら同じジャンルで別の話も書こうかなって思ってるけどね!
悪魔……!!!
シキロさんのえがく悪魔はどんなものなのか興味ありです(´꒳`*)
新しい小説始められるのですね!!!
続き待ってます♪
こんばんは*
ほ、本当ですか!
まだまだ稚拙で及ばぬ文章ですが、そう言っていただけただけでとても嬉しいです…!
コメント有難う御座いました!
本当の小説みたいでスラスラ読めました!!!
続きどうなるのか気になりました✿