遥か昔の話
- カテゴリ:自作小説
- 2009/07/07 00:06:45
カリスの帰巣本能開花から翌日。
結構、団員のいる感じの詰め所は賑やかだった。適当に、行き会ったりばったりの紹介が終わって、詰め所団員の殆どが二人を知る事になった。
「魔族も生活が大変なんだねぇ…こんな、安月給で働かされたサ」
「魔族ってもっとリッチなのかと思ったよ…魔王って結構けんなんな?」
そんな声もチラホラと聞こえる。
「結構、魔族に偏見が無いんだな…意外だ」
詰め所の団員は魔族なれしている為に、誤魔化すことなく紹介された。
結果は、みんな魔族なれしていたのでそんなに疎外されることなく受け入れられる。
キャラバン隊とは、かなり対応が違っていた。
キャラバン隊にとっては魔族は完全なる敵なのに対して、一緒に生活している詰め所の人間にとっては、さほど敵と認識していない。
もちろん、攻撃されれば仕返しだってする。
それは、人間に対してだって同じ事だった。
「ここでのアルバイトである程度たまったら、どうする」
カリスが神妙な顔で聞いてきた。
いつまでも、この街にいるわけではなく「魔族の動向」が確か目的だった気もする。
ついでに、痣も調べるとか…しかし、その二点とも解決しているに近い。
だったら…。
「船長の事が終わったら、島に帰って適当に報告じゃね?痣だなんだって、オレに何かできるとは思えねぇし☆」
しかし、魔王を倒せるかもしれない当の本人はいたって平凡な答えを返してきた。
なにせ、誰かに頼まれたわけでもないし…今のところ島にまで影響があるわけでもない。
第一、魔族に支持されていない政策ならばいずれ内部崩壊を起こす。
ならば、無理をせずに傍観するのも良しというものだ。
「でも、魔王を倒せるのは君だけかも知れないんだよ?魔族がどれだけ手を訓だって、彼にはかなわなかったって…今も魔族のそばには、さらなる力を求めている魔族が潜んでいるとか」
やたらと詳しくなっているカリス。はてなマークでカリスを見ると、迷子の時に送ってもらった人が、詳しく知っていたとかで色々と話していたらしい。
「帰巣本能じゃなかったんだな…」
「うん、流石にね…帰巣本能だったら島を目指していたと思うよ」
カリスだって、流石に全く知らない地では方向感覚が鈍るらしい。
「剣を持って、魔王を討つ事が出来るのは君だけなんだよ」
なにやら懇願する色合いが濃い。
「ん~その剣って、相当威力があるんだろ?だったら誰だっていいんじゃね」
あくまでも人事らしく、話がひと段落した隙に走り去ってしまうリルド。
一人、その場に残されたカリスは。
「その剣は…君以外が使うと…」
◇◆◇◆◇◆
詰め所の仕事の合間に、カリスは知らない場所まで来ていた。
街に詳しくないはずのカリスが、この場所に来るまでに迷う事は無かった…マリで、何かに導かれるように、町外れの誰も知らない場所まで。
「やっぱり難しいか…いきなり、魔王と戦えとか」
その場所には、昨日の「あきらかに人の姿を逸脱した人型の魔族」がカリスの話を聞いていた。
カリスの声は全く力無く感情もとのなっていなかったが、報告にそのようなものはいらないとばかりに気にした様子は無い。
「最終手段か…誰だって、大切な人間の命がかかっていれば動くでしょう」
そう言って、魔族の手からカリスの手には一振りの剣が渡された。
「大丈夫。この剣を知るのはいないよ…思う存分暴れなさい」
カリスは剣を受け取り、ゆっくりと頷いた。
◇◆◇◆◇◆
「新人二人とも元気だねぇ…」
数日が経ち、詰め所勤めも板についてきた二人。
魔族のリルドは、ヨウロンに魔法を習いながら戦い方を覚えている。
カリスはもともと剣の腕は確かだったり、強くなっている敵にもなれてくればすぐに成果を出せるくらいだった。
「剣の腕がいいと、剣も輝きを増すねぇ」
誰かが、カリスの剣を指して言う。
確かに、カリスの剣は怪しく光っている時もあるが、普段はただの長剣だった。カリスが「まだまだですよ」と笑いながら応えるが、目は笑ってはいない。
「なんか、最近お前…おかしくねぇか?」
リルドがカリスに尋ねる…お金を稼いでからの事を話し合った日から、カリスの様子がおかしいと思っている。
「そんな事ないよ。一日でも早く島に帰って…報告とかも終わらせて面倒から開放されたいだけだよ」
そういって笑っているが、何か違和感を覚える。
「…なんか、この間と言ってる事ちがくねぇ?」
この間は、魔王を倒せるのは君だけだ!と言い募っていたはずなのに。
「君が面倒が嫌いなのは知っているからね…ゆっくりと待つことにしたんだよ」
何故か「諦めていない」事を確認して安心するリルドであった。