■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途(7)
- カテゴリ:その他
- 2012/08/14 14:09:08
■近代文藝之研究|時評|新舊演劇の前途 (7)
西洋の歴史物を見ても古い藝風を摸してゐるのは少なくない、又しかすべき理由もない、あらゆるものが時代と共に變形するものとせば、芝居の如きも人情の自然といふ點でさへ不朽の處を有してゐたならば、表情動作の如きはその時代/\で是がむしろ當時の自然であつたらうと解釋せらるゝ形に變つて行けばよいのである、西洋で時代物たとへば沙翁劇などをやつても、原作はミーターあり調子のついた文句でも、之れが臺詞となり動作となるに及んでは、必ずしも自然な七五や、ギクシャクした誇大的動作には陷らぬ、アーヰ゛ングは「ハムレット」を斯ういふ風にやつたが自分は斯う工夫してやつて見やうと前の俳優の型を削り自力でやろうとする、此場合の各俳優の苦心は感情の自然の表白如何といふことである、中には稀にある程度迄西洋にも古名優等の型を摸することもあるが、これは其方が一層自然的表情に叶ふと見るからでなくてはならぬ。無論弊に陷る時には例令ばフォーブス、ロバートソンが「オセロ」をやれば英國紳士になりすぎるとか、ジョージ、アレキサンダーが「ハムレット」をやれば英國の好男子になりすぎるとかいふやうな弊はあるけれど、それは餘弊である。
--------------------
*註1:歴史物
「歴」の旧字体。「林」が「禾」+「禾」。
「史」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_humi.jpg
*註2:又しかすべき・又脚本について
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註3:人情・表情・感情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註4:その時代/\
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg
*註5:沙翁
「翁」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ou_okina.jpg
*註6:ミーター
「meter(韻律)」のこと。長さの単位の「メートル」と綴りは同じ。
*註7:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg
*註8:文句
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註9:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註10:前の俳優
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註11:削り
「削」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/saku_kezuru.jpg
*註12:ある程度迄
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg
「迄」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註13:一層
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。
*註14:弊に陷る・とかいふやうな弊・餘弊
「弊」の旧字体。「敝」+「廾」。
*註15:フォーブス、ロバートソン
ジョンソン・フォーブス=ロバートソン(Sir Johnston Forbes-Robertson/1853年~1937年)のこと。イギリスの俳優。
[参照]⇒http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/Johnston_Forbes-Robertson_cph.3b31602.jpg
*註16:ジョージ、アレキサンダー
ジョージ・アレキサンダー(Sir George Alexabder/1858年~1918年)のこと。イギリスの俳優。
[参照]⇒http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/4/4d/George_Alexander_Postcard.jpg
*註17:それは餘弊である。
原本には句点がないが、脱字と思われるので改めた。
--------------------
■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
考える人みたいな、台詞あったね