遥か遠い話
- カテゴリ:自作小説
- 2009/07/02 09:36:36
キャラバン隊と離れて二人で旅をすることになった。
リルドは別れを惜しんでいるようだが、カリスは気にも留めていなかった。
確かにいい人も多かったが、暴走のたびの陰口はひどいものだった。暴走の頻度が増すたびに、陰口は酷くなっていく。
このままでは、日常でも暴走しかねないと心配していた。
「しかし、二人旅も退屈だよな」
確かに、二人きりは退屈だろう。
キャラバン隊と離れたために、これからの旅に必要な準備をする二人。餞別として剣と当面の金銭だけはもらえた。それでも、二人旅に必要なものを全て揃えるのは難しかった。
「しばらくは、この町でアルバイトしないと…キャラバン隊から紹介状もらったし、護衛の仕事とかは見つかりそうだよ」
キャラバン隊からは『剣の腕は確かである』という紹介状をもらっていた。これが無いことには、コネの無い田舎者がそう簡単には仕事にありつけそうに無い。
「ん~護衛か…ちょっと大変そうだがやるしかねぇな」
なにせ、船が沈没してしまった為に、全財産が海の藻屑となっている。キャラバン隊だってお金持ちではない。
精一杯の事をしてもらって感謝はしているものの、ここで足止めになるのは予測できた。その為の紹介状なんだろう…ついでに、二人で旅をするための戦力強化も考えてくれたのかもしれない。
二人は、近くの詰め所に足を運んだ。
「こんにちは。こちらで雇ってもらいたいのですが」
紹介状に書かれていた詰め所は石造りの建物だったが、立て付けが悪いのか「ギィ」という音を響かせて扉が開く。
中には、一人の男性がたたずんでいたが護衛団の制服らしい服を着ていたから関係者なんだろう。
しかし、その容姿はあまり戦闘にふさわしいとは思えない。どこかの図書館で本を読んでいるほうがふさわしい感じがする…多分、魔法使いなんだろうが。
「あぁ、キャラバン隊からの紹介が…」
一応、キャラバン隊が紹介しておいてくれたらしく直ぐに話が通じた…が、不自然なところで話が切れた。
違和感を覚えてカリスもリルドも男性を凝視していると、男性の表情が見る見る変わっていく…そして、なにやら不自然に髪の毛が揺らめいている。
それを確認した瞬間…髪の毛が迫ってきた!
「貴様!魔軍の回し者かぁぁ!!」
どうやら、この男性が噂の「人型の魔族」らしい…大陸に渡ると色々なものが見れるっていうけど本当だな。
などと、二人で頷きあいそうな勢いだったがそんなことをしている暇は無い。
髪の毛の攻撃は強力ですばやい。それを避けるのに必死になっていると、もう一人の男性が入り口から入ってきた「ギィ」という小さな音を立てて入ってきた男性。
なにやら、見慣れた風景といわんばかりに二人を攻撃している髪の毛の大元をはたき倒した。
「何するんだ!こいつらは魔軍の追ってだぞ!最近になって、魔王が復活したから集まれとか抜かしやがって…こっちだって、生活ってモンが」
後から入ってきた男性に訴える人型魔族。
「よく見ろ…一人は人間だろ」
確かに、リルドは疑惑から確信になってしまったがカリスは立派な人間である。
「…あの…魔軍って」
人間代表として、カリスが力なく疑問を口にした。
もしかしたら、この場にいる人全員が魔族かも知れないという恐怖…は、特に感じていなかったが、それでも人外に囲まれている緊張感はある。
「あぁ…安心してくれ、俺は人間だから」
カリスの感じた緊張感を感じたのか、後から入ってきた男性が人間であると告知してきた。
長年、魔族と一緒にいて見分けることができるようになったらしい。いまだに興奮状態の人型魔族を放置して、カリスたちに向きあった。
「魔軍って言うのは、魔王が復活したときに北の方で編成された軍なんだとよ。それで、中級以上の魔族全員に伝令が送られてきたらしい…ってか、そいつんところには来なかったのか?」
リルドは魔族確定であるが、そんな連絡は(どんな形で伝令されているのかは知れないが)きていないはずだ。
首を左右に振るリルド…自分が魔族らしいと知ったのもつい最近だったために、色々と魔族関係は勉強不足である。
「結構、上級の魔族に見えるのだが…魔軍の伝令が行っていないのか?そういえば若いな…だから伝令がいっていなかったのかもな」
適当に納得した人型魔族。
魔族の平均年齢は1000とも2000とも言われている。かつて、魔軍が存在した時期に生きていた魔族にのみ伝令が回ったのかもしれない。
「…なんだか、最近の魔物の活性化の秘密をいきなり突き止めた感じだな…」
今まで、ぼんやりと蚊帳の外にいたリルドがひっそりとつぶやいた。
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