Nicotto Town


人生カカト落とし


神林長平トリビュート 其の一

表題の本が文庫化されているのを書店で見つけ、複雑な心境になった。
文庫にするの?(して買う人いるの? 買う奴はもう買ってない?)だったら最初から文庫で出してくれればいいものを……

そう、親本を持っている。2009年の11月に、神林長平のデビュー30周年記念ということで出されたハードカバーの単行本だった。

神林自身の本は単行本が出た時点で買う。この本は、迷った末に買ったが、楽しんだので後悔はない。
だが、値段はとにかくサイズ的な面で、ちっとばかしうらめしくも感じる。
スペースが破綻してるのだ。できるものなら省スペース版で欲しかった。

まぁでも、出した時点で文庫化する予定があったかどうかはわからない(ので購入した)。
文庫版の帯に虚淵玄と円城塔の名があった。前者は『魔法少女 まどか☆マギカ』の脚本、後者は芥川賞受賞者(受賞で都知事がカンシャク起こして選考委員を辞めたと思しいw)として最近えらく注目されたので、売り時とみて文庫化したのでは、などと勘繰っている(帯にはもう一人名前があったが、ミステリ畑の人なので、注目度が変わったのか、お客が呼べる人なのか判断がつかない)。

神林長平は、個人的には特別な作家だが、賞とか流行に注目する人には縁がない書き手だろう。だから(参加者には事欠かないだろうけど)こんな本が出たこと自体驚いたし、それがまさか文庫落ちするとは思わなかった。
トリビュートやらないかと声をかけたらこれだけ作家が集まる人ではあるのだが。
ちなみに、雪風と火星三部作に手を出した人はなし。「フムン」と書いた人はふたりいたw。
神林による序文は、面映ゆげながら若い作家たちを立て、しかしまだ負けない、と宣言していて頼もしい。新たな作品を待っているw
以下、簡単に各作品の感想を(掲載順)。


狐と踊れ   桜坂 洋
神林のデビュー作を視点を変えて「逃げた側」から。それだけでどうしようもない莫迦話になる。ネット上で「ふざけるな」という感想を見たが、冷静に考えればもともと、とんでもなくシュールな話なのだ。それに気付せることが、むしろ話の主眼かもしれない。

七胴落とし   辻村深月
子どもが超常能力を持ち、大人になると失う世界での、成長とその痛みの物語が『七胴落とし』なら、これはまちがいなくそうだ。が、あの元作品を換骨奪胎してこんな暖かく優しい成長の物語にしたのは驚く(読んでた病院の待合で、危うく落涙しかけた)。視点人物が、元作品では現に思春期なのに対して、この作品では守るべき者がある、子をもつ親の回想だからというのもあるのか?
この作者さん、読んでみようと決心したが、まだ手を出していない。情けなや~
(帯の「もうひとり」はこの方。実はこの感想はすこし前に書いたもの。その後にこの方が直木賞受賞されました。……なるほど)

完璧な涙   仁木 稔
元作品で魔姫が宥現と離れていた間の話。
なんだけど、なんだか物足りない、違うのだ。魔姫ってこんなもんだっけ?
SFM掲載の東城和美によるコミカライゼーションでも登場シーンを一瞥して「ない、違う」と突っ込んでいた。
どうも、わたしは魔姫を並外れたファム・ファタールとして記憶しているらしい。
原作、そろそろ読み返してみようか?

死して咲く花、実のある夢   円城 塔
完全に理解できたか自信がないのだが、読み取ったままなら、鳥肌が立つほど壮大な実験の話。
なんだけど、参加の合意が得られない未生の子どもを巻き込む(というかそれが前提)な時点でちょっと好きになれない。考えてみれば興味深いのだけど、ね。

魂の駆動体   森 真紅
元作品からグレードダウン、と言うのは気の毒か(もとは長編、こちらは短編)。
読む側に自動車に思い入れがないので、物作りへの愛情とジジイ萌え部分が薄くなると思い入れづらくなる。
逆に言うと、車好きな人にとって元作品はどう感じるか聞いてみたい。なんせ表題が表題なんだから……

長くなったので、以下次回。

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2012/07/26 23:40
ながつきさん
商業で単行本が出た本は一応全部読んではいるのですが、あまり読み返してない作品は結構忘れています。
アマゾンのレビュー、見てみましたが、そう悪い作品ばかりじゃないですよ。
そも彼のレビュアーさんが絶賛する神林からして、わたしは好きですが、結構癖がある、人によっては読みづらい作品もある作家ですし。
この本では「七胴落とし」にびっくり、「敵は海賊」でニヤリ、このふたつが抜きん出ていたかと。
伊藤計劃急逝により書かれなかった「過負荷都市」が読んでみたかったです。
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2012/07/25 21:09
気になりつつ未読です。なにせ、神林作品を全クリアできていないし・・・。
どんな文庫カバーかなと、アマゾンを開いたら、なんだか絶望感漂うレビューがありました。
それにしても、タイトルを見ていると、元作品を読み返したくなります。




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