七夕小説・4ねんめ(1)
- カテゴリ:自作小説
- 2012/07/07 14:54:11
綾の許にその携帯電話が届けられたのは、春先の事だった。
送り主は綾の現住所を知らないので、それは実家に届けられた。彼は綾がしばらく実家にいるのを知っていたのだ。
綾が一人になったことも。
会うのは、年に一度
別れた時の約束で、そう決められていた。
彼は律儀にその約束を守りつつけた。今後も守りつつけるつもりだ、という意思の表れだろう、この携帯電話は。
送られてきた携帯電話には、アドレス帳に1件だけ名前が登録されていて、スケジュールも、1件だけ登録されていた。『デート(笑)』と件名に書かれたそれは、全日指定で、場所さえ入っていなかった。
別れを切り出されたのは突然で、綾は泣いて嫌がった。
だが、手遅れだった。
『話がある』と、綾の前で切り出された時は、全てがもう決められていたのだ。
予兆を感じなかったわけではない。だがそれは些細な違和感でしかなく、綾はそれを気のせい、と片付けてしまっていた。
綾が何か手段を講じていたら、別れは回避できたのだろうか? ……それはわからない。
さんざん抵抗した後、綾はその別れを渋々受け入れた。……受け入れるしか、なかった。
ゴールデンウィークの少し前、綾に『彼氏らしきもの』ができた。
「プラネタリウムの招待券があるんだけど……興味、ない?」
そんな誘いをかけてきたのは、アルバイト先の先輩で、たしか一つ年上、の牧田、という姓の男だった。下の名前はあいにく覚えていなかったが。
プラネタリウムが今ちょっとしたブーム、というのは知っていた。
だが、その程度しか興味はなかった。
「『星と音楽の夕べ』……?」
「月例の特別プログラムなんだ。ここのプラネタリウムは、音響設備も良くて、通常プログラムも結構凝ってる。音響設備を生かして、映画の上映会も時々やってるけど、せっかくプラネタリウムなんだから……」
思いがけず熱く語ってしまったことを恥じたのか、急に言葉を切る。
「……ごめん。……引いた、かな?」
気まずげに俯いた顔を、不覚にも可愛い、と思ってしまった。
「引いたりはしませんが……先輩がこんなにしゃべるのは初めてなんじゃないかなぁ、って思って」
珍しいものを見てしまったので、つい、承諾してしまった。
牧田が力説するだけあって、そのプログラムは満足のいくものだった。宇宙や神話に関する知識も得られたし、BGMも意外性があって楽しめた。
「楽しかった、です」
綾が頬を赤らめて言う。BGMにつられて、途中でうっかり涙を零したのを見られてしまったのだ。入口で配られたで顔を扇ぎながらドアをくぐる。
そのパンフレットによると、『星と音楽の夕べ』月例プログラムのほかに、天文関係のイベントやトピックがあるときの随時プログラム、というのもあるらしい。
直近では、七夕が予定されている。
「えーと……また、誘っても、いいかな?」
駅で別れるとき、牧田が訊いてきた。
少し考えて、
「予定がなければ」
と綾は返事を返す。
七夕のプログラムを見てみたい気がするが、ひょっとしたら見られないかもしれないな、と思いながら。
彼から待ち合わせの場所と時間について連絡が来たのは、夏至の日だった。
忙しい彼が待ち合わせの連絡をよこすのは、直前の事が多く、十日以上も前に連絡が来るのは、初めてかもしれなかった。
「……どうしよう、かな」
待ち合わせの時刻は、ちょうどプラネタリウムが終わる時刻。でも、移動の時間を考えると、プラネタリウムは十分ほどで抜けなければならないだろう。
……もしくは、待ち合わせの時刻を後ろにずらしてもらうか。
あるいは、プラネタリウムをキャンセルするか。
綾は携帯電話を開いて、メールを打った。
ナイスなタイミングでINできたかも♪^^
何か文章読んだ瞬間、懐かし~!って思っちゃいましたよ。
まぷこさんの文章だわ~。(当たり前…)
感想は、私ものちほど♪
感想はのちほど・・・続きを楽しみにしていますw