『ノエイン もうひとりの君へ』
- カテゴリ:アニメ
- 2009/06/28 00:14:14
お気に入りのアニメについて、とのお題。
迷ったあげく、控えめに言っても良作なのに、知名度が低いこの作品について書いてみる。
フと思い付いて検索したら、アニメ好きの人向きに出回ってるバトンで名を挙げられてはいたが、大抵「知らない」にチェックがついていた。
理不尽に思えたが、無理もないかもしれない。
放送されたのは地方局の深夜だし、キャラクターデザインは今様の流行りから大きく外れている。
その上、スタッフによる絵柄のバラつきが大きい。回により、場合によってはシーン毎に、かなりの差がある。
均一な作画になれていれば我慢できないかもしれない。
八十年代ロボットアニメに鍛えられてしまったw眼からすると、絵柄(画風)こそまちまちでも崩れではないので無問題、どころかアニメーターの個性が見えて逆に興味深い。
絵柄を似せることより、動かすこと・各アニメーターの「もっともいい絵」を描いてもらうことを重要視した監督の方針による。
だからか、子どもたちの行動・日常から、超常的な戦闘シーンまで絵が実に良く動く。
アニメーションが絵を動かして映像を見せる(魅せる)物だったと再認識した。
題名のノエインとは『認識すること』を意味するギリシャ語らしい。
認識することがどう関わるかというと――ぶっちゃけると、この話は量子力学の観測宇宙論から発想された物語なのだ。
といっても小難しい話ではない。
出てくる用語は厳密ではないし、無論フィクションだ。
ブルーバックスの『十歳からの量子論』を読んで、自分が九歳以下である可能性に戦慄した人間(わたしだw)でも 、作中の内田ちゃんの説明を聞けば話がわかるようになっている。
最初のうちこそ、伏線だらけ、平行して流れる状況が少々わかりづらいが、共感しやすい子どもたちの日常や、アクションシーンについて行くうち、物語に入りこめる。
小学校最後の学年が始まる日、函館で暮らすハルカは教会の尖塔の上に佇む黒衣の影を見る。
そして、幽霊の噂が囁かれていた、一学期最後の日。
ハルカは、幼なじみのユウが母親に強制された中学受験のストレスで切羽詰まっている様子なのが気がかりで仕方がない。
その晩、クラスメイトと出かけた肝試しでハルカは黒い影に追跡される。助けに入ったユウに、ハルカを追っていた黒衣の男が言い放つ。
「俺はお前だ」と。
この話は量子論をベースにしたファンタスティックSFなであると同時に、小学生の子どもたちの(ある意味てらいなく子どもでいられる)最後の夏休みの冒険の物語であり、頑張る子どもたちを支え守ろうとする大人たち・(自身等には失われた)大切な物を守ろうとする大人たちの物語でもある。
中心になるのは小学校六年生の子どもたち以外は大人ばかり、弱さも欠点もある、しかし魅力的な人物で、心底憎める人物はいない。
ヒロインのハルカは、前向きで快活、物に動じず、そのせいか時に鈍感に振る舞ってしまうこともある。
一見大人びているユウは、実は未熟で繊細・内向的で、序盤に進路や親との軋轢に苛立つ様子は、見ていてクルものがある。
視聴者でさえそうなので、もうひとりの主役・カラスの立場だとさらに我慢ならないのだろう。「お前にハルカは守れない」「お前には無理だ」とユウいびり――じゃない、否定の言葉を(任務に無関係どころかその妨げにもなりかねない)吐かずにいられないのは、切ないなぁ、辛いのだろうなぁ、と心情は察するに余りある。――にしても、さすがに大人げない。ユウとすればたまった物じゃない。
イッちゃったキャラとして登場するアトリも(好戦性は『あちこちイジられた』ためだろうし)背後を知ってしまうと、「不幸ヅラの莫迦」とカラスを嫌うのにも納得してしまう。
狂言回し的に裏表ない悪役シノエモン――じゃない、篠原は腹立たしいが、郡山さん(登場する刑事さん)が頑張ってくれるなら、まぁいいか、と思える。
すべての元凶たる「あの人」だって、許せはしないにせよ、むしろ哀れに感じてしまう。
いわゆる「世界系」としてこの話が扱われることがある。
世界の命運が主人公たちの身近で動いてしまう、という意味ではそうかもしれない。主人公たちの決意と選択が世界を左右する。
だが、世界を守ろうと全力を尽くす大人たち、存在までかけて子どもたちを守ろうとした“脇役”たち(世界系的な見方ならば)がいなければ、終幕はまるで違ったと断言できる。
そんなありようや、物語から見えてくるテーマからしてむしろ「反・世界系」自分の周囲だけでは世界は成り立たないよと主張しているように思える。
前向きなテーマを内包するストーリー、人間臭いキャラクター、そしてアニメーションそのものの魅力を思い知らせるほどに動く絵が揃っている作品だと思う。
アニメーション、SF、前向きな物語が好きな方なら是非。
いえ、「子どもでもわかるほど平易」をうたう入門書を読んだはずが、わたし(@当時成人済み)が釈然としないままだった、だけでして……orz
レンタルには、ややマイナーだけにあるところにはある、って感じかと。
ただレンタル版にもセル用と同じ特典映像が収録されているらしいので、お得かも(特に七枚目)。
PCのOSがWindowsなら動画配信もあるようです。第一話は無料らしいので試してみるのもアリかも。
さあやさん
いらっしゃいませ。
ドン引かれるかなぁ、と思いつつ(実際、自分でも軽くヒく)、ついつい語りまくりました。
ここ数年でこんなに真っ正面から「面白い」と思えた作品はなかったので。
あまり知られることなく埋もれていく良作・秀作・傑作は他にも沢山あるのだろうな、と勿体なかったり。
ぼーるがーどさん
人物がウケを狙った類型じゃなく、特に子どもたちは身に覚えがある類の現実感があるのが魅力だと思います。
どうしても年齢相応の視界しか持っていない子どもたちにそれ故の強さがあったり、逆に異質な強さを持っている人物が、大切な物を失ったがゆえに自分を信じ切れなかったり。
カラスも実のところかなり危うくて、「あちら側」に行ってしまわなかったのはひとえにフクロウら友人たちがいたからじゃないかと。
これだけ丁寧に、踏ん張ってつくられた作品があまり知られずに済んでしまうのは、いくらなんでも勿体ないですよね〜。
ながつきさん
萌えとか、美形とか、ラブシーンとか、ヲタ受けしそうな物はないせいか、知名度は本当に低いです。
(実は結構切ないラブストーリーでもあったりするのですが)
でも、目を見張るアクション+物語+人間味あふれる人物が揃った傑作だと思っています。
いつか見たいと思います~。
受験をさせて少しでも高みへと考える母と、そのために犠牲になっている中で、ハルカとの約束を必死に守ろうとするユウ
他の子供たちにしてもそう
そして、黒マントご一行様やその中の異物カラス、某〇〇〇〇様とかも
シノエモンもそうですね
それが、全体の枠組みを知った立場、視聴者ですな、から見るととても異質であったり、腹立たしかったり、やきもきしたり
でも、総じて彼ら彼女らが、そこで生きていることの証でもあるのです
これだけ質の高いアニメーションなのに、きわめてマイナーであること
それは、アニメーションの映像作品的地位、およびその存在に対する認識が低いことの表れです
アニメーション大国として、諸外国から垂涎の的である日本
その日本において、アニメーションであるからと言う理由で、優れた作品が打ち捨てられてゆく
なんとも寂しいお話ですね><
私も好きです(*´∇`*)
確かにあまり知ってる人いないかも
だいたい今でも量子論てよく知らない・・(*'-'*)
この作品とかってツタヤとかに置いてあるの? なんかまず無理そうな気がするのです