Nicotto Town



遥か昔の話

キャラバン隊はモンスターの襲撃には慣れている。
敵が姿を現すと同時に、ほとんどの人間は起きていて馬車の準備と戦闘への参加を果たしている。
起きていない人間は、起きた連中にたたき起こされてすぐに行動を起こしている。
「ある程度片付けちまったら、この場から逃げるぞ!これだけの数を相手している暇はねぇ」
うなづくのがやっとの二人を尻目に、守人たちもモンスターを倒していく。
秩序無く襲い掛かってくるモンスター…守人たちの戦いなれた剣の餌食になっていく仲間たちの姿を見ても、退く事は無い。
背後からは、島では見た事がない魔法も応戦してきた。
「魔法使いがいるんだな…」
炎が渦巻き風が切り裂いていく様を、見た事がない二人は不思議な物を見るような感覚で眺めていた。
本来なら、そんな暇も無いくらいの敵の襲撃のはずだが、二人はモンスターとの戦闘に慣れていないと判断されてさりげなく戦闘の中心から外れの方に移動させられていた。
「回復の人もいるんだね…島では、怪我なんてしたらすぐには直らないのに」
最初の襲撃でかなりの怪我をしていたはずのカリスは、いつの間にか直っていた事からそう判断したのだが。
しかし、次から次へとモンスターが襲い掛かってくる…まるで、狙っている何かがここに、あるかのような集中攻撃である。

「船長…何暢気に寝てるんだよ!」
いつまでも馬車から出てこない船長を、心配したキャラバン隊の女性が寝ているはずの船長に声をかける。
「…!あんた、何者なんだい!!」
船長が寝ていたはずの場所には、言いようの無い生き物が…音を出しているように見えた。
何故、音を出しているように見えたのか…その生き物が、船長の背中から生えた甲殻類を思わせる8本の足と蝉ににた羽を揺るっていたから。
しかし、その音は人間には聞こえない…モンスターを呼び寄せるための音だから、人の鼓膜を震わせる事はない。

ズシュ!!

背中から生えた足の一本が、女の体を貫く。
「キャァァア!!」
別の女性の悲鳴で、何人かの守人が馬車を振り返る。
丁度、馬車から得体の知れないモンスターが姿を現す所だった。その、足の一つに貫かれた女性の体が力なくぶら下がっている。
その、女性の体を邪魔そうに振り払ったタイミングで守人の何人かが得たいの知れない敵へと刃を向ける。
未だに中央からぶら下がっていた船長の体を、大きく揺さぶって振り落とす…そこからあらわれたのは、眼球を血管で包み込んだような…自然では生まれ得ないモンスターが姿を現した。
8本の足で向かってきた刃を受け止め、何かを探すように目玉を動かす。
『まだ…生きていたんですね…』
しゃがれた声で何かを確認するように音を出す…あきらかなる敵意は人間全てに向けられてはいたが、狙っているのはただ一人のようである。
「ナンなんだ…あれは…」
他のモンスターと戦いながらも、新たにキャラバン隊から現れた敵を視認するリルド。あきらかに、特殊な敵は何人もの守人をあしらっていて隙が無い。
カリスも確認する事はできたが、今はそれど頃ではない。
「モンスターの数が減ってきたね…」
それは、呼ばれていた音が止んだためかモンスターの中には引き返すものもいたが、新たにあらわれる事は無かった。
「アッチに加勢してくる!」
リルドよりも早くモンスターを片付けることが出来たカリスは、すぐに踵を返して新たにあらわれたモンスターへと向かっていった。
「ちょ…待て!」
島では素手で戦う事が多かったリルドは剣の扱いはなれていない。
そのために、カリスよりも手こずっている事が多い。
守人の何人かは、回復が間に合わなくなるくらいの大怪我を負っている…それでも、最初の女性以外の死者が出ていないのはさすがと言えよう。
「あんたらは下がっていろ…とてもじゃねぇが、相手にならねぇ」
「でも、これを倒さないと逃げる事も出来ないでしょ…目玉までいければ…」
目玉は、他の足に比べて柔らかそうだ…単純だがそこが弱点と考えて正しいと思う。
何人かで足のほうを押さえ込んで目玉を狙うのが定石と思われた。
「隙を突いて目玉までいけるか…」
「やってみます!」
足のほうが硬いのは判っている。使いなれない武器で力も無いカリスでは甲殻の足を押さえ込む事は出来ない。
そう判断されたカリスには目玉を撃つ役割を与えられた。
守人が一斉に行動を起こし、足を押さえ始めた…漸く、襲撃してきたモンスターを片付け終えたリルドも合流しようとしたが、一足遅かった。
既に、目玉に向かって飛び出したカリス…足を完全に押さえ込まれたモンスターもこれだけでは終わらない。
薄っすらと…目玉が怪しい光を帯び始めた。




月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.