Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(63)

 「どうした?気分でも悪いのか?」
 いつもの閲覧室で、机に突っ伏していると、クリスがドアから顔を覗かせてそう声をかけてきた。…もうそんな時間か。
 「体調が悪いなら、ちゃんと自分の部屋に戻って休めばいいのに」
 悪いのは体調じゃない。…おそらくは。
 「大丈夫。熱もないし、どこかが痛い訳でもない」
 顔を上げてそう言うと、クリスが心配そうな顔をして部屋に入ってきた。
 「でも、顔色が悪いぞ?あんまり大丈夫そうには見えない」
 言いながら、こちらに手を伸ばしてくる。額に、クリスの華奢な手が当てられるのを感じる。
 「…うん、確かに熱はなさそうだな。…何があったんだ?」
 そう言って、こちらの顔を覗き込んでくる。
 「何も無い。心配してもらうような事は」
 「…そうか。じゃあ、私が勝手に心配するだけにしておこう」
 クリスの言葉に苦笑を浮かべるが、うまくいったかどうか自信がない。
 「そんなこと言われたら、話さなきゃいけない気がするんだが。……自分でも、何があったか解らないんだ。まるで、白昼夢を見たみたいで」
 「…白昼夢?」
 「……ああ。実際のところ、今もまだちょっと頭の中がおかしいかも。クリスが心配そうな顔をしてるなんて」
 「ひどい事を言われてるような気がする」
 クリスがむくれた顔をする。…これなら、よく見る表情だ。
 不意にクリスが、立った姿勢から腰をかがめて、顔を近づけてくる。
 ふわりと漂う甘い匂いが鼻腔をくすぐる。匂っているのはクリスの髪か、肌か、それとも息か。
 唇の上に柔らかな感触が残る。
 「…いつかの、お返し」
 えーと。いつかの、って……
 クリスが俺の肩に頭を載せて、耳元でささやく。
 「正気を取り戻したなら、帰ろう。何があったかは、話せるようになったら話してくれればいい」
 「……びっくりした。けど、あまり正気になった気はしないな。…でも、帰るとしようか」

 「…ふうん…そんな事が…」
 帰り支度をしている途中でクリスに入庫パスを見咎められ、結局「気分が悪い原因」について話す羽目になった。
 なぜかこの話を聞いているうちに、クリスの表情が翳ったのが気になるが。
 「他人の入庫パスで入ったからそういう目に遭ったんじゃないのか?」
 「これは教師用のだから、そんな機能は付いていないはずだ」
 教師用パスならば、教師本人のほか、数名の学生を通せる権限がある。だから借り出したんだが。
 「第一そういう理由なら、転移通路が使えないようにしとけばいい」
 「うーん。冗談で和むような状況じゃなかったか…」
 冗談を言っているような表情には見えなかったが。
 「………アレク」
 クリスがふと立ち止まる。つられて立ち止まると、クリスがいきなり抱きついてきた。
 「人はな、自分のことは自分が一番よく知ってる、と思うものなんだ。たいていの場合、それは正しい。…でも、時々、そうじゃない事がある」
 そして、ひどく真剣な面持ちでこちらを見上げ、続いてこう言った。
 「アレクの、その現象について、私に心当たりがあるが、今は話したくない、と言ったら、アレクは怒るか?」

#日記広場:自作小説

アバター
2009/06/28 13:40
あれ?二人があやしい展開に・・・
アレクのイメージがこの前から少しづつ変わってきたような。
アバター
2009/06/26 09:22
感情表現が上手ですね。いや、むしろ凄いです…。



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