遥か昔の話
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/26 00:23:23
頼りない道を、歩いていた所に…後ろから蹄の音が響いてきた。
キャラバン隊…多くの町を渡り歩く彼らは、町と町を繋ぐ大切な存在である。
時にはモンスターに襲われることもあり、常に危険と隣り合わせの彼らは、町に入れば大体が歓迎される。
そんな、頼りになるキャラバンが今まさに背後から迫っていた。
なんとか、このキャラバン隊に町まで一緒に行ってもらおうと声をかけるタイミングを計っていたら。
「こんな所で何してるんだよ…」
キャラバン隊の先頭を走っている馬を操っている男に声をかけられた。
確かに、こんな何もない場所を丸腰の三人が歩いていくにはあまりにも無防備である。キャラバン隊でなくたって声をかけていただろう。
「実は…」
今までの経緯を説明して何とか納得してもらい、一緒に行ってもらう事ができた。
キャラバン隊は、人情派の人間が多い…特に、大波にもまれた丸腰の人間を見捨てる事なんて出来るはずがなかった。
「本当に助かりました…」
丁寧に礼を述べるカリス…釣られてリルドと船長も礼を述べて荷馬車に乗せてもらった。
「船長さんは、町に着いたら船を買うんかね?大変かもしれんが頑張りなね」
荷馬車に入るなり気さくに声をかけてくるのは大抵がおばさん年齢になっている人たちである。
人見知りをしないキャラバン隊の中でもおばさん連は特に人見知りをしない。
アッと言う間に船長の今後についての話し合いが始まってしまった。
「なんか…すげぇ」
おばさんのパワーに圧倒されながら、荷馬車の片隅に移動する二人。
決して人見知りが激しいタイプではないが、多すぎる人の中にあえて飛び込むタイプでもない。
「あんたら丸腰だと辛いだろ」
そんな二人に声をかけてきたのは外からだった…丁度、荷馬車の窓に当たる部分に陣取っていた二人は、外から見えやすいともいえる。
馬にまたがるキャラバンの守人の一人は、服の上からでもわかるくらいの屈強な体を馬に乗せていた…馬は、かなり辛いのではないかと思う。
「町までの間、夜の見張りを手伝ってくれたら剣の二本くらいくれてやってもいいぜ」
ウィンク付で好条件を出してくれた。
一応の剣の覚えがある二人…大陸の敵は強いとはいってもそれほどでもとは考えてはいなかった。
「判りました…さすがに丸腰では旅に出れませんからね」
“旅”の単語に呆れつつも、剣のある場所を教えてもらい夜の見張り時間を詳しく尋ねる。昼間は荷馬車に乗っているだけなので、夜は結構長い時間を申し付けられた…確かに、二人は馬に乗ったことが無いので仕方が無いが、リルドは「剣は苦手だからイラナイし…」と小声で文句を言うくらいである。
「ゴメンねぇ…夜の見張りを押し付けちゃって」
そう言って見張りをしている二人の元にあらわれたのは、おばさんと呼ぶにはやや若い感じの女性だった。
その手には薄手の上着がある…二人は、南国から来たせいでかなりの薄着といえる。いくら、寒くない地域とはいえ、夜はそれなりに冷え込む。
「ありがとうございます…大丈夫ですよ、ふるさとでもそれなりに剣を扱っていましたから」
そう応えて上着を受け取る。羽織ると薄手とはいえそれなりに冷え込んだ体を温めてくれた。
「まぁ、ここら辺は大陸でも強くは無いけど…あんた達が向かう港の方は結構強いのもいるらしいよ…二人で行くより、キャラバンにくっついていった方がいいよ」
女性の心配も最もである。
モンスターは人間よりも強い…人間がモンスターに勝てるのは、偏に多勢に無勢だったり道具の力が大きい。
「そうですね…考えてみます」
女性の助言を素直に受け取り、これかの予定を考える。
深夜…さすがに、見張りは二人っきりではないものの、安心しきる事は出来ない。
全神経を暗闇に集中させる。
「…どうした?リルド」
急にあたりを気にし始めたリルド…鋭い眼光を闇の一点に向ける。
他の見張りも気にしている様子は無い。きっと、リルドの気のせいだと結論を出す直前…リルドが動いた。
近くに落ちていた小石を、睨み付けていた一点に投げつける。
がさっ
小石が落ちたであろう音を響かせる…一瞬の静寂。
次の瞬間、闇の中から瞳を血走らせたモンスターの群れが姿を現した!
カリスが剣を構え応戦するも、数が圧倒的である。
普段から剣を使わないリルドでさえ、剣を構えて迎え撃っている…モンスターの殻が硬いため、素手で殴る事が出来なかったのであろう。
二人が、苦戦しながらも何匹かの敵を片付けると…キャラバン隊の見張りが漸く駆けつけてきた。
「すみません!数が多すぎて…」
律儀にカリスが侘びを入れると、ウィンクで応える守人。
なにも、二人に全てのモンスターを押し付ける気は無い。