■近代文藝之研究|時評|個人の寂寞、……(5)
- カテゴリ:その他
- 2012/06/11 22:56:30
■近代文藝之研究|時評|個人の寂寞、勝利の悲哀 (5)
之れを要するに、今は既に個人主義、本能主義の歡喜を説くべき時でないと共に、之れが解脱を説くのも容易の業ではあるまい。今はむしろ之が悲哀、寂寞を説くべき時ではないか。而して是れ正に一代の思想が最も文藝に利するの秋ではないか。
先頃徳冨蘆花氏の『黒潮』と題する雜誌に、「勝利の悲哀」といふことを論じてあつた。捉らへ得て好題目といふべきであらう。吾人は前述の理由からして此の語に甚深の意味あることを覺える。論者が同じく年末に出した著書『順禮紀行』よりも。此の一文若しくは此の一句に遙に多くの感味があると思ふ。たゞ論者は之れを宗教家、經世家の態度から言つた。吾人は之れを文藝と相關せしめて其の妙を見る。又蘆花氏は之れを日露戰爭の後と相關せしめて論じた。戰勝の誇りに歡喜してゐるものをして其の底の悲哀を感ぜしめんといふ。古くは熊谷蓮生坊の昔から、近くは兒玉源太郎の逸話に及ぶまで、げにも戰勝の血に塗れた手を解いて悲哀の珠数をつまぐる自然の人情には眞理がある。
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*註1:要するに
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註2:既に
「既」の正字体。「白」+「ヒ」+「旡」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg
*註3:説く
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註4:解脱
「脱」の旧字体。旁が「兌」。
*註5:文藝・一文
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註6:徳冨蘆花
「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg
「冨」は原本では「富」となっているが誤植と思われるので改めた。
*註7:『黒潮』
「黒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kuro.jpg
「潮」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyou_ushio.jpg
*註8:「勝利の悲哀」・戰勝
「勝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/katsu.jpg
「勝利の悲哀」は1906年(明治39年)12月25日発行の『黒潮』第1号に掲載されている(蘆花=38歳/抱月=35歳)。原文は「日本ペンクラブ:電子文藝館|招待席・反戦反核|徳冨 蘆花」のページで読むことができる(400字詰め原稿用紙で10枚ほどの短文)。
[参照URL]⇒http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/guest/antiwar/tokutomiroka02.html
*註9:前述
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
「述」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyutsu.jpg
*註10:論者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註11:紀行
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。
*註12:宗教家
「教」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_oshieru.jpg
*註13:又蘆花氏は
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註14:熊谷蓮生坊
「蓮」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
熊谷直実(1141年~1207年)のこと。平敦盛との一騎打ちの後、法然の弟子となり出家。その時の法名が法力房蓮生。能の『敦盛』等で広く知られる。埼玉県立図書館HPの「デジタルライブラリー」に『熊谷蓮生一代記』(葛原斎仲通/著・1811年/刊)がある。
[参照URL]⇒https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/data/d_conts/kicho/syosai/019.html
*註15:近く
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註16:逸話
「逸」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「兒玉源太郎の逸話」がなにを指すものかは、不勉強につき不明。
*註17:人情
「情」の正字体。「月」は「円」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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- 銀の雪王子@ゆう
- 2012/06/11 23:01
- うんうん 人情薄いから最近
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