「契約の龍」(59)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/22 01:31:48
「…さて、これで大体互いの人物像はつかめたかな?アレクも…クライドも」
食べるのを終えたクリスが指先の汚れをナプキンで拭いながらそう言った。
「…いくらか誤解してるところはあるかもしれないが、まあ大体は」
「えぇーっ!誤解してるかもしれないって……それですませちゃう人なんだ?」
「クリスからまともな情報を取ろうとは思ってないからな。最低限、名前だけ分かれば、他から情報は取れる。だから、クライド君も、さっきの「ヌシ」関連の情報は忘れてくれていい」
というか、積極的に忘れてもらいたい。備品だの消耗品だののありかに煩わされるのは予防しておきたいからな。
「うーん……まあ、確かにクリスティンが僕たちを評価する目が歪んでるのは否めないけど」
「だろう?」
「ひどい言われようだな。嘘は言ってないぞ」
「「嘘でない事」と「事実」の間には、狭くても深ーい谷間があると思うが」
クリスが軽くむくれる。と、ふと何かを思い出したように、クリスがクライド少年の方に顔を向ける。
「ああ、そうだ。クライドは何か私に話があったんじゃなかったのか?わざわざ探しまわった、って事は」
「えーと………伝えたい用事は、ここに来る前に済んじゃってるんだけど……」
「済んでる?」
「「ポチ」が通信として使えないんだったら、代わりの用意がある、って」
……なるほど。確かに聞いた気がする。
っていうか、「ポチ」は通信用に連れ歩いていたのか?
「じゃあ、部屋に案内してもらおうか。場所だけでも確認しとかないとな。…アレクも念のため、ついてきた方がいいんじゃないかな?」
「は?念のため、って…まさか緊急時に使いっ走りをさせる気じゃ…」
「アレクって、時々信じ難いほど鈍いな。クライドの部屋は、一応男子寮にあるんだし、こう見えても私は未婚女性だぞ?」
「いや…それは忘れたことはないが……昼間だし」
それを言うなら、ナイジェルの件の時はどうだったんだ、と言いたい。…まあ、あの時は緊急だったから、か。…それに部屋に直接飛んできてるし。
クリスが睨みつけてくる。
「……わかりました。お供しましょう」
個人に貸与される寮の部屋は、基本的にどの部屋も同じつくりになっている。
ドアを入ってすぐわきの壁にクロゼット。正面奥に机と書棚、対角線側の奥にベッドが配置されている。机とベッドの間に窓が一つ、窓の外はバルコニーになっている。ベッドの手前の壁に隣室と共有の洗面スペースへ通じるドアがある。
ただし、個室内の運用は個人に任されているので、実際には、空間を拡張したり、備え付けの家具を好みの物に変えたりされていることが多い。
クライドの部屋は、貸与されてまだ三日あまり――本人の言うところによれば――なので、まだ原形を保っている。
「んー…女子の部屋の方が、若干収納スペースが広い、かな?部屋の広さ自体は、確か同じだったはず」
「いや…女子の部屋の方が、若干広いはずだ。建物の大きさは同じだけど、女子の方が部屋数が幾分少ない。一フロア当たり一部屋分か二部屋分くらい」
「…やっぱりヌシはよく知ってるなー」
「ねぇ」
クリスとクライドが顔を合わせてうなずき合う。
「だから、「ヌシ」って言うのは、やめろ。で、肝心の「通信手段」とやらはどこに?」
「あぁ…はい」
クライドが部屋の奥に向かい、ベッドの下の収納から、小さな箱を取り出す。
箱の中から出てきたのは、金色の薔薇の花束をかたどったコサージュだった。ただの装飾品として見ても、申し分のない出来栄えだ。針仕事で呪符を構成するのは、クリスの家の伝統なのだろうか。
「これは…おばあさま、が?」
「花一つあたりにシルフが一つずつ封じてあるって。休眠状態にしてあるので、使う時には花を開いて、休眠状態を解除してから使うように、と伝言が。…この説明で、わかるかな?」
「うん…わかった。どうもありがとう。…って、向こうにも伝えておいて」
今週はココログのほうへもお邪魔できそうデス^^