「契約の龍」(57)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/20 00:59:17
「アレクの立場?……なんと説明したものかな?」
クリスが軽く首をかしげる。
「とりあえず今のところは、ここの学生。二十年近くここにいる、学院のヌシのような存在だ」
今のところは、は要らないし、二十年、のくだりは誤解を招きかねないし、「ヌシ」に至っては、悪意さえ感じるぞ。
「人の事をまるで化け物のように言わないで戴きたいな。クライド君がおびえた顔になったじゃないか」
「学院最年少入学記録保持者が何を言う。一歳十カ月だったかな、九カ月だったかな?なかなかこの記録は塗り替えられないと思うぞ」
「……どこからそういうろくでもない噂を」
「父だ」
軽くこめかみを押さえる。直接からかうだけじゃ、まだ足りない、とでも言うつもりなんだろうか、あのお方は。
「……そういう冗談な情報は、彼は求めていない、と思いますがねえ」
「冗談だったのか?」
「実技の授業に、しばしば飛び入り参加してたことは、どうやら事実らしいけど、別に入学していたわけじゃ……」
「えーと……ということは、もしかしたら、ソフィアさんとも面識があったり…?」
クライド少年が、おそるおそる、といった様子で訊ねてくる。クリスの両親の接点がここだ、ということは、あっちでは知られていることなのだろうか。
「その可能性は、非常に高いが、何しろこっちは幼すぎて覚えていないので」
「…あぁ、その辺は普通なんだ」
「……リンドブルムが道端に落ちているようなところで生まれ育った人にとっての「普通」というのがどのようなものかは解りかねますが」
「そんなもの道端で拾うような常識はずれは、ソフィアさんだけ」
そうか。やっぱりリンドブルムを拾う、っていうのはありふれてはいないのか。…それとも、リンドブルムは普通に落ちてても、拾うことは稀なのか?
「…って、そういえば、その「ポチ」はどうしたのかな?見たところ連れ歩いてないようだけど」
「アレクの妹に預けてある。私のところに置いとくと、「証」の奴のせいで衰弱しちゃうので」
「妹…さんもここの学生さん?」
「いや、まだ初等教育を終えてないので。ただ、体が弱いんで、ここの療養所の世話になってることが多い」
「そう聞いたんで、面倒が見てもらいやすいんじゃないかと思って。下手な相手に預けると横取りされかねない、と思って預けたんだが。アレクの七つ下だから……お前より一つか二つ下じゃないかな?これがなかなか綺麗な子で」
いや、その情報、伝える必要ないし。
「へぇ…「ポチ」が取られかねないくらい?」
……「綺麗な子」と「「ポチ」を横取り」の間に、何か因果関係を認めているんだろうか?
「んー…私が早いとこ「証」を抑制できるようにならないと、その虞は大いにある」
「……珍しく弱気だねぇ?そんなに手強いの?」
「手強い、というか……やつは女嫌いなんじゃないか、と思われるふしがあるので、どうしようかと途方に暮れる」
女嫌い、て。その言い回しには何か誤りがありそうな。
「あぁ……そういう理由で手懐けられないのだったら…仕方ないねぇ。……まさか、それで見た目をどうにかしよう、とか?」
「見た目だけ変えたって、幻獣には関係ないだろう?もう既に取り憑いてるやつだったら、特に」
「そりゃまあそうだけど……あれ?てことは、とりあえず、接触はできるようになったんだ」
「できる、っていう訳でもない。……親戚の者に手伝ってもらって、二回ほど試みた。そしたら……攻撃しかけられた」
「うわっ…そりゃ大変。その辺のこと、あっちに知らせた方がいいかな?」
「うー……てこずってる、くらいにしておいてほしい。助けを頼んでも、うちの家族じゃ、逆に危ない。…それに、こっちでもそれなりに手助けはあるから」
「手助け、て……「アレク」さんの事?」
「さん、は要らない。呼び捨てが気になるのだったら、フルスペルでアレクサンダー、か、姓のロジェ、で」
「アレクサンダー・ロジェ、さん?」
しばし何か考え込む様子。
「……あぁ、寮長に名前は聞いてます。…あなたがあの」
「あの?」
「あの?」 で終わってますねwww
めちゃくちゃ気になります