遥か昔の事
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/20 00:09:22
遥か昔-この世界は混沌と絶望に覆われていた。
誰もが、目の前に立ちふさがる死の恐怖から逃れる事が出来ず。
無慈悲にも、無実の人々の命が奪われていた…そう、ある意味平等に…。
魔王と名乗る時空を越えた存在は、その圧倒的な力で世界を支配しようとしていた。
理不尽な暴力による支配…全ての人が、それを受け入れはじめたとき。
唐突に、その恐怖は終わりを告げた…。
誰もが待ち望んだ勇者は、遅すぎるのではないかと思われた時にあらわれた。
一振りの剣と、その剣と対なる紋章を持ち。
恐怖や絶望を力に変えて、圧倒的な力を誇る魔王を世界の外へと追いやった。
平和な時代は、この世界に豊かさをもたらした…誰もが死の恐怖に怯えることなく、緩やかに時は流れていった。
しかし、平和は形を変えていく…一部の者に富をもたらし、一部のものに貧困をもたらした。
自らの野望の為にと、国同士の争いも生まれ…人による脅威がもたらされる事もあった。
しかし、それは些細な事だった…なぜなら、人以外のものが人を脅威に陥れる事の無い平和。
人にとって、恵まれた世界だったからである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王の脅威が遥か昔に遠ざかった時代。
国同士の小競合いは、絶え間なく続いていた…決定打にかけるためか、あるいは商人の陰謀かは判らない。
たとえ、判ったとしても誰も気にしないだろう。自分の知らない所での戦争ならば…自分が苦しむ事がないのだから。
再び魔王は、牙をむき出してきた…それは、大国の地下深くから現れた。
「本当に、これで隣国を攻略する事が出来るのだな…博士」
北の大国ジャベルーン…雪に閉ざされる事の多いこの国は、大国と言われているが貧困にあえぐ国でもあった。
少しでも豊かな土地を求め、近隣諸国に牙を剥き属領としてきた豪の国である。
そして今、騎士団領と呼ばれる隣国・ディジェスタの攻略のための兵器完成させる為に、地下深くに魔方陣を施していた。
「はい…この魔方陣は地下深くに眠る力を呼び起こすためのものです。この力を敵国に向かわせればひとたまりも無いでしょう」
地下には禍々しい光を放つ魔方陣は、まるで生き物のように明滅している。
「ならばすぐにでも…」
「もうしばらくお待ちください…力の調整を行って…」
博士の説明が終わる前に、魔方陣の光が強くなりすべてを飲み込んでいく。
この日、北の大国であるジャベルーン軍は騎士団領を攻略し…さらなる脅威を振りまき始めていた…かつての、魔王のように。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
北の脅威が届かない遥か南の地。
恵まれた実りと、冬でも雪が降ることの無い島…ラコット。
「今日もクソ暑いぞっ!」
白い砂浜が全ての太陽光を反射しているのではないかと思えるような場所に、仁王立ちしている青年。
その黒髪は光を全て吸収している勢いで暑さを増している…出来る限り涼しい格好を試みた結果、上半身裸が一番だったらしい…褐色の肌と逞しい体には、太陽が似合いそうではあるが。
「背中がやけにチリチリしやがるな…だから、こんな事になるんだな…」
彼の足元には軽装とはいえ兵士らしい格好をした数人の男達が倒れていた。
青年が平穏な村に入る手前…一人の青年が待ち構えていた。
「…今度は何をしたの?」
詰問口調の青年…赤い髪に相応しくない優しげな面差し、しかし今はキツイ顔で青年を出迎えている。
「…今日は合コンな!場所は決まっているんだよ」
嬉しそうに手の中の紙切れを見せびらかす。場所は、少しはなれた町のパブらしい。
「そんな事やってると、いつか監獄に放り込まれるよ!」
心配しているらしい相手を他所に、楽しそうにしている。
「だぁいじょうぶだって、あいつらだってナンパに失敗した挙句、丸腰の相手に殴り倒されたって言えねぇからよ…安心していいぜ」
ウィンク一つして楽しそうな青年…遅れるなよ…と言い残してその場を立ち去る。
その、背中には薄っすらと紋章が浮かび上がっていたが、それを確認できたものはいなかった。
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- 桜城ノ漣小路.青
- 2013/08/18 14:02
- 訪問感謝、申し訳ないが足消ししてくれると嬉しいです
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