あふれる光が消えると、そこには光り輝くほど美し…くもない、普段のみなわが立っていた。
みなわ…いや、王女の頭の上にとまった王子は、「ピーちゃんは？」と、辺りをきょろきょろ見回した。
「あ～～～！大変だよ！ピーちゃんが落っこちてる！」
窓に駆け寄った二匹？（…二頭？…人と一匹？ややこしいので以下二人と呼ぼう）は、慌てて気絶したピーちゃんを拾い上げ肩に乗せると、放り出した荷物の中から適当な大きさのものをひっつかんで、恐る恐る街に出かけて行った。

二人が着いたところは、中央イベント広場と呼ばれる場所。
二人は行き交う人に圧倒され、呆然と立ちすくんでいた。
「お姉さん、人、いっぱいだね」
「そ、そうね」
「ねえ、どうやってわらしべするの？」
「…」
「お姉さん、ねえ、お姉さんたら！」
「う、うるさいわね！今考えてるんだから、黙ってて！」
「ピーちゃんまだ目が覚めない？」
「…うん」
「目を瞑ってって、言えばよかったね」
二人が後悔していると、見知らぬ男性が近寄ってきた。
「ねえ、彼女。かわゆいね～」
可愛いなんて、生まれてこの方一度も言われたことのない王女は、ぽっと頬を赤らめた。
「姉さん、何赤くなってるんだよ！」
小さな声で抗議する弟をしり目に、王女はにっこりとほほ笑んだ。
「ねえ、君みたいにかわいい子は、花束がよく似合うよ」
「そ、そう？」
王女は伏し目がちに言った。
「そうさ。きみが持ってるその似合わない玉より、この真っ赤なガーベラのほうが似合ってるよ」
「ほんと？」
「うそを言ってどうするんだい？これ、君にあげる。だから、その似合わない玉を僕にくれる？」
優し声で言われた王女は、
「いいわ」

と、青い球を差し出した。
男は王女の手から奪うように玉を取り上げ、人ごみの中へ走り去った。
「お姉さん、何だったの今の人」
「さあ…？でも、これがわらしべっていうのかもね」
王女は、手の中の赤いガーベラを見て、うふっと微笑んだ。
その時、ピーちゃんが目を覚ました。
「キ…？」
まだ頭がぼんやりしているピーちゃんは、王女と手の中の花束を見比べている。
「ピーちゃん、ね、見て。わらしべをしたの私たち！」
「キ…なんだってあんな目のくらむような光が出るって言わなかったんだ！？」
「ごめん…だってみなわが帰るまでに出かけなくちゃって焦ったんだもん」
「キ…ったく、せっかく夏がそこまで来てるのに、いい迷惑だ…」
「……………」
長い沈黙の後で、ピーちゃんが首を傾げながら聞いた。
「わらしべって言ってたな？…何と交換したんだその花束と？」
うっとりと花束を見ていた女王は、
「青い玉よ」
「青い玉？」
「うん、白い貝殻の中に入っている青い玉」
「キ…白い貝殻の中に入っている青い玉って…まさかみなわが大事にしていた真珠貝じゃないだろうな？」
「…………」
「キ…そうなのか？」
「…………」
「そうなんだな！」
「……うん」
王女が小さく頷いた。
「キキキ…バカかおまえ！あれはみなわがものすごく苦労して手に入れたものなんだぞ！」
「でも、この花束をもらったわ。これきれいだもん。みなわ喜んでくれると思うわ」
「キー…お前、庭に出たたことないのか！？庭にはそんな花いっぱい咲いてるだろう！みなわはこの頃タンポポを育てるのをやめて、種を買てきて庭に蒔いてるんだから！」
「…そうなの？」
女王はしょんぼりと、手の中の花束に目を落とした。
「きれいなんだけど…」
頭の上で王子がため息を付いた…。