続ワンコ侍 (上)
- カテゴリ:レシピ
- 2012/05/02 20:09:58
夜空の星が瞬く影で 悪の笑いがこだまする
街から街へと泣く人の 涙背負って始末旅
今宵も奴らが 天に代わりて悪を討つ
時は江戸 仁湖斗藩にて、見事悪を倒したご隠居一行。
されどご隠居たちとはぐれたワンコ侍は空腹に耐えかねていた。
行き倒れてしまうのか!そんなワンコを待ち受けるものとは……。
ご隠居たちとはぐれて数日、ワンコ侍は、お腹が空いていた。
「山へいくなの!キノコや木の実なんかがあるはずなの!」
ところがクマも人里に下りてくるこのご時世、山に食べ物などなかった。
ヨロヨロと仁湖斗神社の狛犬に、寄りかかるようにへたり込むと急激に眠気が襲ってくるのだった。
「も~ダメ…眠いよぱとらっしゅ~」
意識が途切れかかったその時、人の気配が近づいてきた。
「およ?兄さんこんなトコでなにしてんの?」
「…」
「ひょっとして流れ者か、何かかい?」
「…」
(ぐぅ~~~)
その時、ワンコ侍のお腹の虫が鳴いた。
「腹が減りすぎて喋れないってか」
男はクスクスと笑いながら
「ちょっとそこどいとくれ」
というとワンコ侍の寄りかかっていた狛犬の口に手を突っ込んだ。
「あったあった…。兄さんついてきな蕎麦でも奢るぜ」
粋に着流しを着た男の右手には、いつの間にか小さな巾着袋が握られていた。
「なるほどな~ご隠居とかくさんって2人を探していると」
「ずずずず~~そうなの!寂しいなの!心細いの!お腹空くの!」
ワンコ侍の食いっぷりを眺めながら、男は笑い出した。
「おっと俺は京、一般人よりちょっとだけイケメンなかんざし屋だ。 よろしくな」
ワンコ侍は抱えた丼と一緒にうなづいた。
「おっとコレの話だったな」
京は神社から持ってきた巾着袋を持ち上げ話し出した。
「仁湖斗神社にはな、都市伝説みたいなのがあるんだわ
あそこに金置いて拝んどけば、ドコの誰かが恨み晴らしてくれるってな。
巷じゃ仕事人なんて呼ばれてるらしいぜ」
ワンコ侍は黙ってうなづいた。
「まあ、そんなヨタ話信じるアホもいないとは思うんだが
時々マジで金がある時があるからさ、そんときゃありがたく頂くって寸法だ」
京は巾着袋をブラブラさせて見せた。
中で硬貨同士がぶつかりチャリチャリと金属音を奏でている。
「まあこの感じじゃ、あんまり入っては無さそうだな」
京は袋を空けた。そして紙キレを取り出して目を通している。
「ん? どうしたなの?」
「アンタを飢え死にから救ってくれた娘のお話 読んで見るかい?」
京はワンコ侍の前に、手紙を放り出した。
「詐欺でだまされて有り金奪われ、父親も殺され自分も売られちまうから敵をとって欲しいってさ~」
「ま、俺のような少しイケメンなだけの一般人に渡っちまったら、どうしょもないがな」
京は顎に手を当てて、キリリとした顔を作って見せた。
「まあ、せめてもの罪滅ぼしで人助けってわけさ。 いや犬助けか?」
京とワンコがそんなことを話していると、外から悲鳴が聞こえた。
「キャ~やめて、おとっつあ~ん! 助けて~」
「城下のめぼしい娘は、全て仁湖斗様がお召しだ! 御触れを知らんわけじゃあるまい?」
「娘は、娘だけは~」
「文句があるなら藩主に言いなよ! ぎゃ~っはっはは」
にわかに、店の中もざわつき出す。
「うわ~また藩お抱えのゴロツキだよ」
「あいかわらずエグイことやりやがる」
ボソボソ声で、あちこちから声が上がる。
「仁湖斗家の当主、仁湖斗三四郎は当代切ってのエロオヤジでな
手紙の彼女も嵌められた、ど悪党よ! あれはそこのチンピラ君だな
何せ藩主自らが首謀者なんで、ここいらじゃ誰も逆らえないのさ」
そこまで言うと京は、チラチラとワンコ侍を見つめた。
「で、正義のお侍様としては、助けたりはしないのかい?」
「ふむふむ…でもご隠居さんがいないとたいぎめーぶんが立たないのよね」
「侍ってのは、面倒なんだな」
京は落胆した素振りも見せず、窓の外へと視線を移した。
(無念を晴らして…なのね)
ワンコ侍は、しばらく手紙を眺めていたが不意に立ち上がった。
「おい兄ちゃん? どこいくんだよ」
「食後の運動なの!」
ワンコ侍は厳しい顔をして店を後にした。
さた、ワンコ侍はどう行動するのでしょうか
それは明日のお楽しみ~