「契約の龍」(55)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/18 02:21:05
「クリスティン!………………だよねっ?」
寮の玄関ホールのところで、女子寮側に向かうクリスに呼びかける――と思しき、まだ声変わり前と思える少年の――声がした。クリスが、ぴしり、と音を立てそうな様子で一瞬固まり、瞬間的に表情が消えて、ものすごい勢いでそちらの方を振り向く。十四・五歳に見える金髪にそばかすの少年が微妙に表情を変えながら、近づいてくる。声変わりしていないようなので、もう少し下かもしれない。おそらく、今期の新入生の中で、一番の若手だろう。
「……ニコルの方?クラウスの方?」
クリスが険しい表情でそう問いかけると、
「……相変わらず名前が覚えられないのな。ニコル、じゃなくてニコライ、クラウス、じゃなくてクライド」
と、あきれたような声で訂正が入った。
「…でもって、僕はクライドの方。ニコライの名前が覚えられないのは、まぁ仕方ないとして、どうして三年も机を並べてたのに覚えてもらえないんだろ?」
「お前らしょっちゅう入れ替わってたじゃないか。それにうちでは、長男次男三男って呼んでたしな。二番目、三番目って呼ばないだけましだと思え」
……それは呼んでるも同然だと思う。
「…で、偵察に行って来い、とでも言われた?」
「まぁ、そんなとこ。ずいぶん探したよぉ。その頭と服のせいで見落としてたのかな」
「あー……ちょっと寮を空けてたから。入学の頃、この頭と服のせいで女子寮の廊下が、軽く騒ぎになったんで」
「それなんだけど…どうして、男子学生の服着てるの?」
「別に、これは男子学生の服、って規定されてるわけじゃない。頭の方は、…ちょっと魔法に不自由してるんで、緊急時用にとってある」
緊急時って……ナイジェルの時のような、か?
「魔法に不自由って?……ソフィアさんが死んでから現れたっていう「証」のせい?」
「まあね。もう、どうにもこうにも、言う事きかなくて。父にもどうしようもできないって言われて、ここに来ることになった。……っていうのは、届いてるんだよね?」
「それで僕が派遣されてきてるんじゃないか。書類とか揃えるの、大変だったんだよー。お金はまあ、クリスティンのところから少し融通してもらって、なんとかなったけど……ここまでの道のりがまた、長かったぁ」
「偵察に派遣されてるんだったら、「通信手段」は持たされてるんだよな?」
「あ?…うん、一応」
「じゃあ、使う用事ができたら、借りに行くから、後でどこの部屋か教えろ」
「てゆーか、通常の場合は僕ら自身が「通信手段」だし…」
「あー、そうだった。双子って便利だな。今も中継中?」
「便利、て。四六時中つながってるわけでもないし。……ところで、妙に注目を浴びてるような気がするのは、気のせい?」
「注目?気のせいだろう。私は別に気にならんが?」
……それは「慣れ」って奴だ。
少年が周囲の視線の圧力に負けて、困惑し始めたようなので、助け船を出してやる。
「えーと、クライド君、っていったかな?積もる話があるなら、談話室の方へどうぞ。ここで立ち話してると、人の流れを遮ることになるから」
「…………誰?」
少年が胡散臭げな表情でこちらを仰ぎ見る。何しろクリスよりも握りこぶし二つ分ほど背が低いので。
「…アレク、そういう注意は、もっと早めに出してくれないかな?」
「いや、話題が途切れたら注意しようと思ったんだけど、……クリスがこんなにしゃべるのはめったに見ないので、珍しくて、つい」
「珍しい、って何が?図書館からここへ着くまでの間だって随分…」
「だから、ここに立ってるのは邪魔になる、って」
クリスの肘を掴んで、軽く談話室方面へ押す。
「えーと、談話室の場所はわかるかな?クライド君」
「…なんでこの人は一度聞いただけで覚えられるのに、クリスティンは…」
「クライド君?」
「…あ、はい、わかります」
「じゃあ、とりあえず、移動しよう。君が、どこかへ行く途中だった、というのでなければ」
双子! 金髪! 少年!!
いや、スミマセン ちょっと妄想癖が・・・
クリスのこれまでが気になっていたんだ~ 楽しみ。