Nicotto Town



【小説】紫翼のジーナ~23~

『紫翼のジーナ』10-②話
原案:はじめあき
作者:しゅーひ


警戒心丸出しの俺に対してモルトラはゆっくりこちらを向きながら優しく問いかけた。
「始めましてジーナ。私の名前はモルトラという。大神官を勤めておる」
大神官という言葉にびっくりしていた俺にモルトラが続けた。
「さてジーナ。オマエの父親は禁を犯してしまった。この家も差し押さえる事になっておる。本来なら子供であるオマエにも尋問をしなければならない」
尋問?俺は捕まってしまうのかという恐怖を感じた。気分がさらに黒くなっていった。
そんな俺の心を悟ったように、モルトラは目を細めて続けた。
「安心しなさい。尋問はワシの一存でとりやめる。オマエが禁を犯しているとは見えないからの」

ふっふっふと好々爺のような笑い声をあげた。俺はつっかえていた何かが無くなったようにほっとした。
ありがとうございますと言うべきなのか、すみませんと言うべきなのか迷っていたところに、モルトラはさらに続けた。
「そのかわりという訳ではないが、ワシがオマエの後見人になることを承諾してもらいたい。具体的に言うと、近いうちに学院で様々な事を学んでもらいたいのだ」
後見人だの学院だのは当時の俺はさっぱり判らなかった。
とにかく、明日から食うのに困るなんて事にならなくて済みそうだと思った。裕福に慣れることは無かったが、だからと言ってパンも食えないような暮らしに戻りたくは無かった。
その時は、モルトラの好意をただ、有難いと感じていた。なんの身寄りもないガキに住むところを提供し、学院まで通わせる意味など思いつかなかったのだ。

学院に通い始めて1年が過ぎた。そして学院内を見渡して初めて自分の翼が他の奴等と違うと知った。
自分が〈火〉と〈水〉の能力を使えるようになるのにも時間はあまり掛からなかった。
学院に通うまで、ロクに勉強などしたこと無かったので学問を習得する苦しさよりも知識を得る楽しさの方が大きかった。特に友達を作らず、ひたすら勉強と実技をこなしていた。

気がついたら、学年のトップになっていた。しかし、心を許せるようなヤツには出会わなかった。
それでも、俺は決して長いとは言えない人生の中で、今が一番充実していると感じていた。
ひもじい思いも無い。裕福だが妙に乾いた感覚に襲われることもない。
自分の力が、知識が、確実に上がっていく事に喜びを感じていた。

まわりのヤツは陰でひがみや嫉妬を口にしていた。最初のうちは寂しく感じたが、そのうち相手にするのをやめた。
俺のいるところまでついて来れないヤツなど、どうでもいい。俺の視界に入って来れないヤツは、その他大勢に埋もれていれば良いのだ。
ただ、ホルンだけはたまにヘビ面で、ちょっかいを出してきていた。まぁ、大抵ぶっとばしていたが。

15歳になった俺は学年のトップから学院のトップなんて言われるようになっていた。
何をもって、トップというのか俺には理解できなかった。まわりのヤツがそんな風に噂していたに過ぎない。俺は何も変わらない。ただ、能力を高め、知識を得る行為に勤しんでいた。

ある日、用事があったので学院長室に入ろうとした時、モルトラの声が聞こえた。
モルトラは学院長とは旧知の仲のようで、たまに部屋で見かけることがしばしあった。
しかし、ドアノブに手をかけたその時、モルトラの話す内容が聞こえてきて体が止まった。
「金糸の生産も順調のようだの。販売ルートについてはこちらで用意してある。問題はない」
金糸という単語に体は思っていた以上に敏感に反応していた。
耳をドアにくっつけたが、モルトラの声しか聞こえない。学院長も何かしら言ってるようだがそこまでは聞き取れなかった。
「まったく、金を産む糸だ。こんな事ならもう少しトロワブルを生かしておいても良かったな」
トロワブル?オヤジのことか?額に嫌な汗が浮かんできた。
「わかっておるわ、あのタイミングでないと息子を獲得できなかったからな。手駒を揃えるのも簡単ではないのだ」
タイミング?手駒?なんだかわからない。
「まあ、後のことはよろしく頼むぞ」
と、話が終わりそうになっている。マズイ、このままだと立ち聞きしたのがバレる。

やましい事をした訳でもないのに、そう思った俺はあえて大きな声で言った。
「失礼します。ジーナです」
とりあえず、平穏を装い中に入った。
部屋には、モルトラと学院長、そして見知らぬ男が座っていた。
書類を学院長に渡し、早々と部屋を出ようとした時モルトラと目が合った。
オヤジの話をしていた為か、モルトラが俺を見る目がまるで興味の無い絵画をみるような、灰色がかった目の色をしていた。

アバター
2012/03/31 14:30
何やら 想像以上の展開に えぇ!?となってしまったw
ますます続きが気になる~
アバター
2012/03/31 13:38
10話の②です。
ジーナの過去の話が続きます。




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