Nicotto Town


なんとなく猫まみれ


着せ替え創作シリーズ「面」 後編


蔵の面を手に入れてからというもの、
男の舞には単に美しいだけではなく
観た者の心を激しく揺さぶる情感や奥行きと言ったものが加わり
これまで以上に評判になっていったのでございました。

ところが、最初こそ自分の舞に満足感を覚えていた男は次第に、
自分はもっと上手く、もっと美しく舞えるのではないかと思うようになり
もはや常軌を逸した稽古をするようになっていったのでございます。
家人が止めるのも聞かず三日三晩、寝食を忘れ舞い続け
最後はうわごとを言いながら昏倒するようになったので
さすがに周りの者も男の異変に気付くようになったのでございます。

この頃になると、美しかった男の容姿は
痩せて頬もこけ、目の下には黒いクマが表れるようになっておりました。
誰の目から見ても明らかに衰弱しているのに
瞳だけは爛爛と輝き、まるで幽鬼のような有様でございました。

心配した家人達が、一体いつから男の様子がおかしくなったのかと話し合い
どうやらあの面を身につけるようになってからではないかと思い当たるのでございました。
男から面を外さねば、男の命すら危ういと感じた家人達は
舞を止めない男を数人がかりで押さえつけ面を外そうとしたところ
男は大層暴れ、誰も聞いた事のない地の底から響くような低く恐ろしげな声で
「・・・渡さぬ、渡さぬぞ!!!」と叫ぶと
弱りきった体のどこにそんな力が残っているのかと思われるような
ものすごい怪力で家人達をはね飛ばし、
人間とも思えなぬほどの足の速さで何処かへと走り去っていったのでございました。



それきり男の消息はぷつりと途切れてしまったのでございます。



残された家人達は男の行方を捜す一方、
あの面について知っている者は居ないかと使用人たちにも聞いて回ると
この家に代々仕える使用人の一人が
そう言えば自分が子供の頃、うちのひい爺さんが
この家の蔵には鬼を封じた面があるとかないとか言っているのを
聞いたことがある、と申し出たのでございました。
家人達は半信半疑のまま、藁にもすがる気持ちで古い蔵に入ってみると
蔵の一番奥に、空になった古びた小箱が
蓋のされぬまま置かれていたのでございました。
良く見ると、
蓋の内側にはこれまたひどく古びた書付の様な物があったのでございました。
触れればすぐにでもバラバラになってしまいそうなその書付を
高名な学者に判読を依頼して明らかになったのは哀しい物語でございました。



   男の代から数えて7代前の当主は若くして才を認められ
   異例とも思われる早さで家の跡目を継ぎ、舞の評判も上々であった。
   男と同様に、向上心の強かった当主は人々の評判に慢心することなく
   稽古に稽古を重ねていった。
   だが、舞っても舞ってもこれで良しと思えることのなかった当主は
   徐々に己自身の心の渇きに耐えられなくなっていった。
   ある時、稽古場に篭ってひたすら舞い続けているうちに
   当主は鬼と化してしまった。
   鬼となった当主は夜な夜な町の人々に災いをなすようになったので
   家の者達は泣く泣く有名な陰陽師に鬼封じを依頼した。
   陰陽師は鬼をおびき寄せると滅してしまおうとしたのだが
   それだけは許して欲しいと泣きつく家人達の願いを聞き入れ
   金輪際外界には決して出さぬという約束をさせた上で
   当主の身に着けていた般若の面の中に封じたのであった。
   家人達は家の敷地内に大きな蔵を建て、その奥に
   かつてこの家の当主であった者の魂を安置したのであった。
   それ故、この面の持ち出しを禁ずる、と。


・・・時は流れていつしか当主の事も、面の事も
人々の記憶から薄れていってしまったのは当然の事でございました。
また同じ心を抱えた者同士が呼び合い、時を越えて出会ってしまったのも
当然の事であったのでございましょう。
かつての当主と同じ様に、鬼に取り込まれてしまったと思われた男でしたが
不思議な事に、人々の前に姿を現し害をなすことはございませんでした。
家人達が方方を捜し歩きましたがその消息はようとして知れず
あるいは誰にも知られぬ場所で死ぬまで舞い続けたのやもしれませぬ。
いつしか男の事もまた、人々の記憶から消えていったのでございました。





ところで先ごろ、
「荷弧」と言う新しい都にて、男の面に良く似た面が売られていたそうでございます。
もしや、とは思いますが、触らぬ神に祟りなしとも申します。
ゆめゆめお近づきなどなりませぬよう老婆心ながらご忠告申し上げます・・・。
 
 

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2012/03/29 20:00
lapoさん♪
お褒め頂きありがとうございます♪
文字数ぎりぎりで何とかおさまりました^^;
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2012/03/27 04:58
物語読みました。
凄く引き込まれる内容でした。
どこにも隙のない素晴らしい
ものでしたネ♪
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2012/03/25 20:00
あやめさん♪
楽しんでいただけたなら光栄ですー♪
うんうん、踊り続けるシューズはわたしもどこかで聞いたことあるかも。

あー、顔はあれこれ整形しました。
青とかグレーのチークが出たとき
誰が買うんだよ~、と思ったものですが
こういう事に使うのね、と納得。^^;

上を上を目指した先に何があるのか
きっとどこまで行ってもゴールなんてないんでしょうねぇ。
真夏の逃げ水を追いかけるような感じ??
わたし自身は色んな事が
まーいっか、このぐらいで♪って思えるので
精神的にはすごく楽です。^^

ゆかりさん♪
読んでくださってありがとうございます^^
あ~、言われてみれば市原さんに朗読してもらったらしっくり来そう♪
そうそう、何でもほどほどが一番ですね☆
ほどほどの幸せが一番幸せ♪
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2012/03/25 18:54
美月たん♪
お褒め頂きありがとですー♪
最初はお面着用のビフォーアフターをコーデで表現しようと思って
その補足として文を付けたんだけど
思いのほか長くなっちゃった^^;
コーデは我ながら上手いこと行ったな♪って思ってます^^

ジョシィーさん♪
お付き合い頂きありがとうございます~。
より上を目指すことは一般的には良い事と言われてますが
わたしはそこそこで満足する方が
人は幸せになれるような気がしますね。

そぅちゃんさん♪
お付き合いいただいてありがとう~~♪
長くて読みづらいかな、と心配してたので
一気に読んだ、なんて言ってもらえるとすごーく嬉しいです❤
また何か創作意欲が湧くようなアイテムが出たら(笑)
宜しくお付き合い願います~^^

たまゆらさん♪
あはは、きっとレプリカですよー。
大量に売られた中に1つぐらい本物があるかもしれませんがー。(笑)

お話作るときって、途中まではどんどん膨らむけど
落としどころが難しいな、って思います。
終わり方、気に入ってもらえて良かったですー。^^
星矢、わたしは12星座編??みたいなのを断片的に見たような。
いつかまとめて全部見たいですねー。

ラムセス2世さん♪
お褒め頂きありがとうございます~。
基本的に衣装は変えないで、顔の造作だけでどこまで表現できるか試してみたのですが
予想外にそれらしく仕上がりました♪

わたし自身はどんな事もそこそこ、ほどほどが幸せ派なので
常に努力し続ける人を見ると凄いなーと思う反面
苦しいだろうなーっ、て気の毒に思っちゃいます。

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2012/03/25 10:49
市原悦子の “語り口調” が思い出されますね。
何事もほどほどが良いと云う教訓のような気がします。
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2012/03/24 12:00
姐さん、Σ( ̄▽ ̄;)!!!すごーい!この顔、どうやって作ってるんですか?(^^;
お話も、素晴らしい!
洋物でも、呪いの踊り続けるシューズとドレスとか、たまにどっかで聞いたこと
あるような気はしますが?
この文体というか表現が本当にお上手で、
このまま、童話作家になれそうな気がします。(*^_^*)b
おもしろかった!!!引き込まれました!

主人公の気持ちは、ちょっとわかる気はします。(^^;
踊ってると、もっとこうすれば…なんて、思ってしまいます。
満足すると、そこで終わってしまうので…
なんでも、そうなのかもしれませんけど…
(>まー、私は才能ないのわかってるんですけどねぇ~あはは~笑)
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2012/03/24 11:20
たゆまざる努力というけれど・・・
やはり人としての分をわきまえねばならぬ、ということでしょうか・・・

顔色まできちんと表現されているとは!
脱帽モノです・・・
アバター
2012/03/24 09:43
どうしよう、そのお面買っちゃったかも(笑)

いや〜、妖しく美しい物語、堪能させていただきました!ありがとう♪
そして、こういう終わり方、好きですね〜♡

*星矢ですが、私は逆に冥王ハーデス編だけ、しかも断片的にしかみたことがなくて^^;
その中で妙に印象に残ってるのがあの双子の神様だったんです。
一回本編(?)もちゃんと見たいんですけどね。
アバター
2012/03/24 09:04
(〃艸〃) 
全編後編、一気に読んじゃいました。
お・・・・・面白かったです♪
物語の内容も 固唾をのむほど 面白かったですが、
この語り口調の表現がまた ステキでした❤

また、何か コーデで物語を書いてくださいな❤
楽しみにしてます ^^

アバター
2012/03/24 00:00
素敵な悲しいお話でございました・・・
強い欲求は人の心も姿も鬼に変えて行ってしまうものなのですね・・・哀れを感じずにはいられませぬ
アバター
2012/03/23 23:54
凄い…
完成された物語もだけど、何よりコーデがすばらすぃーー♫♬
輪郭とか目とか、細かい部分まで完璧っす。。

ギリギリ耐えられる怖さで良かった~wwww




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