「契約の龍」(52)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/09 01:31:32
《竜族の外見について》
大きな体(例外あり)
硬い鱗(例外あり)
皮翼(有ったり無かったり)
肢(有ったり無かったり)
……うーむ。
自分で書き出しといて何だが……
さすが、最強クラスの幻獣。
何なんだ、このとりとめのなさは。
…というか、多分、逆なんだな。外見はともかく力の大きなモノを、「竜」と呼んだんだろうな。
翼があるから「翼竜」。
海にいるから「海竜」。
火を吹くから「火竜」。
雨を降らせるから「雨竜」。
地を這うから、「地竜」。
……だとしたら、単に「龍」とだけ呼ばれるあれは、どんな力を、どれだけ持っているというのだろう?
王国の創設以降に書かれたものでは、「龍」といえばユーサーの龍である、という暗黙の了解があって、それがどんな龍か、ということについては触れられていない。もっと古い資料を探すか、あるいはよその国の文献にあたるしか……
目録によれば、書庫にある最も古い文献は、この学院の創設者による手書き写本で、もちろん貸出禁止。閲覧にも制限が掛けられている。タイトルを見た限りでは、求める情報が手に入る見込みは薄そうだし、……何より、読めるかどうかもあやしい。「古文書学」あたりを取っといたほうがいいかな?
それにしても、乗り掛かった船とはいえ、なんで俺が王族の龍について頭を悩ませないといけないんだ?本来だったら、これはクリスの……
…って、いま何時だ?
外、暗いぞ?
いつの間に日没に?
夕食の時間に間に合うか?
っていうか、昼飯も食いっぱぐれてるし。
クリスはまだ図書館にいるのか?
いったん部屋を出て、カウンターのあるホールの壁にかかっている時計で時間をみて、夕食の終了時間までまだだいぶ間があることを確認する。それから、並んでいる閲覧室を端から端までみて、どの部屋が使用中かを確認する。幸か不幸か、使用中の部屋は、俺がキープしている部屋をのぞくと、一つしかない。
おそるおそるドアを叩いて中をのぞくと、クリスが椅子の上に足をそろえて座り、膝に載せた何かを読みふけっているところだった。スカート姿でそんな恰好をされてたら、即座にドアを閉めて回れ右するところだが、幸いにもひざ丈のパンツをはいている。
「…クリス?何読んでるんだ?」
声をかけると、一瞬こちらに目を寄越すが、すぐに本の方に目を戻す。
「んー……ユーサーの伝記。一番分厚いのを選んだんだけど……関係ない事がたくさん書いてあって。それはそれで興味深いんだけど」
「関係ない事って?」
「…そうだなあ…たとえば、ユーサーが生まれた、とされている年に、ほかの国では何があったか、とか、ユーサーの生まれた日はこの日とされているが、その後の人生を考えると、占術的に言って、別の日に生まれたに違いない、とか。…胡散臭さが全体に漂ってて、おかしい。まだはじめの方しか読んでないけど」
「興味深いのは結構だけど、きりのいいとこでやめないと、夕食を食いっぱぐれるよ?」
「夕食?」
「もう、外暗いし」
「え…?」
とたんにクリスの顔が蒼褪める。
「続きが気になるなら、貸出手続きを取ったほうがいいな」
「ああ…うん、そうする」
慌てた様子で机の上を片づけはじめる。紙、ノート、ペンとインク、そして何冊かの本。
「慌てなくても、時間はまだ余裕があるから。返す本があるなら、預かっとこうか?」
「あ、お願いする。…こっちの山が返す本だ」
指し示された先には、五・六冊の本が積み上げてあったが、どう見ても借りる、と言っている三冊の本の山の方が高い。
あわただしく支度を整え、部屋を出てから施錠する。自分の借りている部屋は、貸出禁止の本が山積みになっているので、ここへ来る前に施錠済みだ。クリスが貸出手続きを取っている間に、開架室の本を戻しに行く。
図書館を出る前に、ちらりと時計を見ると、夕食終了まであと一時間強、といったところだった。