なるほど、これは良くできている小説です。
- カテゴリ:小説/詩
- 2012/02/20 23:39:35
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』メディアワ-クス文庫2011、
その1巻を読みました。
なるほど、2012年度の本屋大賞にノミネートされているのも頷けます。
本にまつわるトリビアな蘊蓄話としても面白いですし、
目の前に置かれた本が辿ってきた物語を解き明かす古書探偵話としても面白いですし、
古都鎌倉の小さな古書店で淡く進んでいく不器用な男女の恋愛話としても面白いです。
この本はいくつもの入れ子構造になっていまして、
まず、本についてのお話。
それも、本の中身と本の来歴にまつわる書誌学的なお話があり、
(誰が、どのような時期に、何を意図して、どのような内容のものを書いたのか、
どの出版社が、いつ、何を狙って、どのような装丁や部数でその本を出版したのか、
作者の全著作においてその本の占める位置、
あるいは、文学史において占める位置や評価、出版当時の反響etc.
といった書誌学的なお話があり、)
加えて、その後の再版・出版事情、諸般の経緯や数々のエピソードによって、
その本が古書市場でどのような商品価値を持つに至ったかという「出張鑑定団」のような
蘊蓄を知る楽しみがあります。
次に、目の前の本が辿ってきた物語についてのお話。
この小説の表現を借りれば、
「人の手を渡った古い本には中身だけでなく、本そのものにも物語があるという」…
その物語を、病院のベットの上にいながら、
わずかな手掛かりから鮮やかに読み解いていく、若き女性店主と
本は読めない「体質」だが、本の話を聞くことが好きな、体育会系の古書店見習い。
この二人が、ちょうど本の世界におけるホームズとワトソンのような関係となって、
本についての書誌学的話題だけでなく、
目の前にある一冊の本が辿ってきた物語を、
つまり、その本に関わってきた人々についての物語を、解明していく面白さがあります。
第三に、本の物語を読み解く人々についてのお話。
本の世界の中では、膨大な知識と鋭い推理力を駆使して、
自由に活き活きと羽ばたくことができるのに、
実社会の中では、人付き合いが不器用で、
常に本の後ろに身を潜めて他人と接しているかのような二〇代半ばの女性店主。
そして、小さい頃のトラウマで本を読むことができず、本についての知識も皆無、
長らく失業状態にあり、親と同居して暮らしていたのが、
ひょんなことからビブリオ古書店のアルバイトとして働くことになった青年。
この二人の不器用で、淡い恋の物語としても面白いです。
その他にも、それぞれの形で本を愛する(中には偏愛している)個性的な人たちが登場して、
彼らの織りなす、ほのかな人間ドラマのお話としても、よくできています。
そして、そのような入れ子構造になったお話が、
『ビブリオ古書店の事件手帖』という一冊の本となって、
今度は、私たち読者の手によって、それぞれの物語を紡ぎながら、読まれていくわけです。
このような、本についての本、本をめぐる人たちについての本、
あるいは、本を読むことの楽しさを知り、本を愛する人たちを描く本については、
いくつか先行モデルが思い浮かびます。
『ビブリオ古書店の事件手帖』の中でも紹介されている
梶山季之『せどり男爵数奇譚』ちくま文庫2000がそうですし、
ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』岩波少年文庫2000も、
それ自体が一つの壮大な物語であると共に、物語についての物語として成立しています。
また、事件現場を見ず、証拠集めに歩き回らず、
本に残された微かな痕跡や、相手の話を注意深く分析することによって、
実際に何があったのかを推理してしまうというタイプの探偵は、
「安楽椅子探偵」というミステリーのスタイルとして確立しています。
(例えば、ジョセフィン・ティ『時の娘』ハヤカワ文庫1977)
真夏の鎌倉なのに、
そこだけはひんやりとした空気が流れているかのような古本屋があり、
その片隅で、本にまつわる蘊蓄や推理を聞いていると…、
いつの間にか、時空を飛び越えた異界へと誘われ、
この世であってこの世ではないかのような不思議な感覚に背中がぞくっとする。
こんな感じは、
幸田露伴『幻談・観画談』岩波文庫1990や
内田百閒『サラサーテの盤 内田百閒集成』ちくま文庫2003
の味わいに似ています。
どうやら私の中でも「本の虫」が騒ぎ出して、
もう2時を廻るというのに、なかなか言葉が尽きてくれません。
愛してやまない本のことを語り出すと、
次から次へと言葉が湧き出て来て…、
しかし、私には経営する古書店もなければ、
不器用で、古書の知識は「全然ダメ」ではあるけれども、
誠実に仕事をしてくれる若きアルバイトもいない…
若くて便利な男、募集中… できれば美形 ☆\(ーーメ)
勝手ながら、そちらの島へと訪ねさせていただきました。
そうかあ、中学校3年生で、いま、受験シーズンの真っ直中なのですね。
がんばってください。
そして、この本は、確かに中学生からも愛されそうです。
なぜって、本が読みたくなる本ですから。
特に、登場した本や作家を、自分でも手に取ってみたくなる。
そうでしょう…?
受験が終わるまで、ちょっと我慢して、
受験が終わったら、鎌倉へでも旅行してみるといいですよ。
鎌倉までの電車の中では、今まで読みたかった本に目を落としつつ…、
私もこの本読みましたが、
とても面白かったです。
本を燃やした最後のシーン
びっくりしましたがあれも偽物
やられました(汗
まさかまさかの連続で
ものすごく吸い込まれるように読んでしまえました・・))