李徴……キライだ
- カテゴリ:マンガ
- 2012/01/22 23:27:45
『草子ブックガイド』一巻、玉川重機/講談社刊とか。
実は例によって古い文章お蔵出し。
休日に買い物に出て、当然のように書店に立ち寄った。
しばらく行っていなかったので、妙な勢いがついて普段なら欲しくても買わないものまで買ってしまった。
声優・坂本真綾さんが中島敦の「山月記」を朗読したCDと冊子のセット(星海社刊のやつ)。結構なお値段で、この代金があれば新訳出直しのムーミンシリーズ買えるんじゃね? なぞと考えつつも会計終えてしまった。
なんだかな~と頭かきつつ、でも作品はずっと前から思うところ多く、なによりあの端正な文章を耳で聞きたかった。
で。洗濯物たたんだり、アイロンかけたりする時に、幾度もいくどもかけていた。
名作だよな~とか、冊子はなくていいと思ったけれど、漢文調だけに手許にテキストがないとわかりにくいかも(でもカラーイラストは特に必要ないと思う)、とかあれこれ考えつつ聞いていた。
一方で、以前から感じていたこと、最初に読んだ時から思っていたのと、同じ事を再認識した。
李徴……キライだ。
嫌なところがわたしと似てるから。
もちろん、こちとらには李徴のような優秀さはない。あんなに尖って振る舞いもしない、自信がないから。
でも、徹底しない割り切らなさ、臆病な自尊心・尊大な羞恥心ってのに、見事なまでに憶えがあって、本当に嫌になる。
必要があって昔の覚え書きのノートを見ていたら、余白に『ここで頑張らないと虎になるぞ!』と大書してあってギョッとしたことがある。
勿論呑みすぎて暴れることへの注意ではなく(そも、アルコール入っても態度あんまり変わらない)、この話を念頭においた言葉だった。
見た瞬間に「うわ『山月記』!」と書いた意図を思いだし、自分の性格と状況についてえらく以前から自覚があって、そして改善されてないのだと思い知らされて嫌になった。
虎になるには最後の線ですこしばかりいい加減で、楽天的で、あきらめが悪いが、それでもわたしのなかの困った部分は、この虎になった男に似ている。
正直、別に頭がよくはないのも、機転が利く人間じゃないのもいい加減承知している。だから、ひっそり身内にわだかまる、どうしようもない自負だか意地だかと折りあえたらいいのに、とさすがに思う。
なので……最初に題名を書いたコミックのなかの「3冊め」の章にうめいた。
しんどい。あんまりにもしんどい。
時を同じくして買った本に、こんなシンクロニシティ起きんでええですよ。
この漫画、『草子ブックガイド』。
書名もさることながら、表紙見て「買おう。で、この作者の作品を買いつづけるかも。でも大売れはしない人だな~」と感じた。
読んでみて、その印象は変わっていない。
表紙を見てもらえればわかる。人物は特に特徴ある絵柄でなく、やや固め。だが周囲に散らばる本を、そしてキャラクターも含め、すべてを表現する線のペンタッチを見てほしい。
とんでもないことに、この漫画、一切スクリーントーンが使われていない。すべての画面が、ペンの線とそれで表現した濃淡、そして少しのベタで描かれている。
書棚が描かれたシーンなどは鬼気迫るものがある。
画家井上直久が描いた漫画『イバラード物語』、『ミヨリの森』の(余談だが、アニメ化された『ミヨリの森』は正直いただけなかった。見る者に引かれるだろう部分を小奇麗にした結果、原作にあった厳しいなかギリギリで成り立っていた部分が踏み躙られていた)小田ひで次の作品あたりを思わせるが、絵柄はもっと漫画絵寄り。
割と好きだけど、一般受けはしづらい気がする。
本にかかわるドラマを描く漫画を最近そこそこ見るが、なかでもこの作品は、内容が個々の本との繋がりが強い。
話は誠実で繊細な作りだが、わずかながら生固い窮屈さも感じる。なんというか物語がやや内に閉じている感がある(「本に執着のあるヤツ以外お断り」的というか……)のがすこ~し残念に感じる。
司書教諭の先生のエピソードで、昔自分が在学中に退任になった司書教諭が、後任が来ないのを憂えていたのを思いだした。
同じとき図書委員として図書館報の表紙絵を描いたら、えらく喜ばれた。本気で頑張って描きはしたが、そも、描き手に技量がない。なのにえらく感激されて「普段どれだけ冷遇されてるんだよ」と複雑な心境になった。
『図書館の主』を読んだ時にも思いだして気になったが、求める人に必要とされる本を届けている司書は、現在多くない気がする。
本を求める側が尋ねないのもあるだろう、だがそれだけじゃなく、届けようとする側が読む側の状況に無頓着すぎる気がする。
図書館は、『図書館の主』で御子柴少年が言った『ただの本が入ってる箱』に近くなっているように感じる。
他者の助言はいらない人間には、たくさん本が入ってる箱はそれだけで得難い場所なんだけど、そうじゃない人に何が出来るかが図書館の真価、なんじゃないのかなぁ……
最近、本・図書館・書店を題材にした作品って多くなりましたよね。
『草子ブックガイド』は、ちょっと生固な面もあるけど読み応えのある話だと思います。
オススメです。
草子ブックガイド・・・メモしておかなくちゃ