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竜を屠った英雄(自作小説倶楽部お題)

竜を屠った英雄<ドラゴンスレイヤ>副題:自作1月/ 干支/男「『竜を屠った英雄<ドラゴンスレイヤ>』」


その出会いは、いつものように臆病で弱虫な貧しい農民の子イセントが、家畜をむやみに棒で突いたり殴ったりしていたニンザン、ウゴンマ、バンヤに、お前もやれよ! と、強要され、それを拒んだために体格で勝るいじめっ子どもに追いかけられて、洞窟へと逃げ込んだことだった。
その洞穴は竜窟と恐れられ、誰一人として近づかない場所で、逃げ込む場所としてはうってつけだった。いじめっ子たちもこの洞穴の中までは追ってくることはなかった。
しかし、イセントだけは、洞穴に皆が恐れるようなものが何もないのを知っていた。いじめっ子に追い立てられ、何度も逃げ込んでいるからだ。
イセントは、ああはなるまい、そんな行いは絶対にしない、と心に誓い、いじめっ子たちが飽きるか疲れて洞穴の入り口から去るのをジッと洞穴の中で待つのだった。
竜窟は、大きいが余り深くはない洞穴で、奥に広々とした生温かい熱気の籠った空間があるだけだった。
そこには変わった模様の鶏の卵をばかでかくしたような丸い岩と、見たこともないような大きな生き物の骨が転がっているだけだった。
これがおそらくは竜だったのだろう。しかし、それはとっくの昔に白骨と化していたのだった。
イセントが卵石に腰かけようとすると、それが砕けた。そして、石の中から、もぞもぞと銀色の巨大なトカゲのようなものが出てきて彼の足にすり寄ってきた。それこそまさしく生まれたばかりの竜のこどもだった。
イセントは、おっかなびっくりしながらも、そいつの頭をなでてやった。竜のこどもは気持ちよさそうに眠った。

その日からイセントは生まれた竜の子にドレイクと名前を付け、少しずつ食べ物を運ぶようになった。
イセントともにドレイクも成長した。
誰からも教わらずともドレイクは最初の冬を迎える前には飛べるようになり、自力で獲物を捕らえられるようになった。
兎、猪、鹿、時には熊までもドレイクは捕らえ捕食した。大きくなるにつれドレイクの食欲は増し、希に山から人里まで降りてきて家畜を襲ってしまうこともあった。
人々は、ドレイクを残忍で凶悪な野獣と呼んだ。しかし、イセントはドレイクが優雅で美しく賢い生き物であると思った。
ドレイクは歯と鉤爪で、牛や豚や羊や馬にかぶりつくが、家畜を食べるために飼っている人間だって同じだろうとイセントは思った。いやむしろ、山を削り川の流れを変え田畑を作り、食べるために家畜を増やし食べている人間のほうがよっぽど凶悪で残忍ではないのか、と。

そしてあるとき、ドレイクは、王様が大事にしていた馬を食べてしまった
怒った王は、この竜を退治した者に、爵位と多額の報奨金を出すとの御触れを出した。
国中から、腕に自信のあるものが、ドレイクに戦いを挑んだ。そのほとんどはかみ殺され、竜の腹に収まるか、投げ捨てられ戻らず、命からがら戻ってきても、身体のどこかが欠けている有様だった。そのなかには、ニンザン、ウゴンマ、バンヤといった顔ぶれもあった。
竜を殺すには、その硬い鱗で守られた心臓を突くか、角の間の眉間に刀を突き刺すしか方法がない。だが、竜には鋼鉄より硬い鱗、鋭く尖った爪と牙、そして鉄をも焼きつくす炎息があるのだ。不意打ちでもなければ、巨体に似合わず俊敏で、獣の中で最も力強く、飛行能力まで持つ怪物相手にそんな攻撃を加えることなど困難だった。

その年は旱続きのせいで農作物の実りは殆ど無く、イセントの村は年貢はもちろん越冬の食糧にも事欠く有様だった。
年貢を納められない村は、とりつぶされ、村民は奴隷として売られてしまうのだ。
村民達は奔走したが、どうにもならなかった。
間もなく収税吏が捕縛吏と共に農民を捕まえにやってくる。村民達は途方に暮れるしかなった。彼以外は。

イセントは、彼等が嫌いだった。だが、それ以外の方法も思いつかないのだった。
彼は、世界を恨んだ。自らの運命を呪った。そして、自らの無力さに激怒した。その勇気さえあれば、自決してしまいたいくらいに。
イセントは、いつものようにドレイクの眉間を撫でた。
「君は悪くない。でも僕は、君を殺さなければならないんだ」
ドレイクは気持ちよさそうに眠った。まるでその運命を悟っているかのように。

あくる日、王の宮殿の前に巨大な生物の死骸が到着した。
それは、英雄<ドラゴンスレイヤ>によって屠られた怪物<ドレイク>の姿だった。
授与された爵位と報奨金によって、村は救われた。彼を軽んじていた村人達は態度を一変して、彼を英雄と称えた。

英雄はその唯一無二の親友をその手で屠り、生を得た。
英雄は自らが葬った存在に手を当て問いかけた。
自分が殺してしまったのは、最も自らが大事にしていたものではないのか、と。
それを殺めて生きながらえた自分こそ、あの何よりも嫌いだった身勝手で傲慢で残忍な存在なのではないのか、と。
そして、その生きながらえた英雄<もの>は、その犠牲の上に成り立つべきものなのか、と。
だが、屠った亡骸<それ>は永遠に口を閉ざしたまま、答えようとはしないのだった。
END

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2012/01/18 00:33
>かいじんさん

コメントありがとうございます。

このくらいの格言的ディティールが毎回インぷローションしてくれるといいのですが、若輩者ゆえなかなか・・・

なにか感じていただけるものがありましたら、作者としてこれ以上の無い極みです。
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2012/01/18 00:30
>スイーツマンさん

コメントありがとうございます。

お褒め頂きありがとうございます。
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2012/01/17 20:47
自分が殺してしまったのは、最も自らが大事にしていたものではないのかと、と

この一行に深く考えさせられました。

最後の一行に悲哀を感じます。
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2012/01/15 09:38
矛盾に人は生きる。理想のままには生きられない。
問題提起がなされよい作品だと思いました。
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2012/01/14 00:30
>まゆさん

コメントありがとうございます。

そうです。家畜です。どんな猛獣でも、餌を与えてくれる存在に対しては従順なものです。
たぶんおそらく知性のある霊長類あろうとも・・・w
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2012/01/14 00:27
>ちょみさん

コメントありがとうございます。

共存は基本的にハッピーエンドになってしまうので、個人的にあんまり好きじゃない(←性格悪いw)
終わり方で一番好きなのは、勝つには勝ったけど、多大な犠牲を払ってぎりぎり勝った、もしくは引き分け(ドロー)で終わるのが好きですね。(←かなりのひねくれ者ww)
あと、今回は、オルタナティブをテーマにしたので、この終わり方になりました。
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2012/01/14 00:22
>BENクーさん

コメントありがとうございます。

王を打ち倒すパターンは考えつきませんでしたw

でも、その構図は王というよりも対人間という構図となるように私には思えるので、家畜を喰らい、田畑や村を焼き払い、憎むべき存在を皆殺しにするまでの殺戮劇になるかもしれませんが、字数制限的に難しく、最終的に竜と狂った人間はやっつけられました。もしくは、竜に乗った王が誕生しました。という結びとなると思うので、個人的に普通すぎて面白くない気も・・・どっちも倒し倒される側が、あまり映えませんww
しかし、彼の性格からいって、やっぱりそれは却下ですw
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2012/01/14 00:12
>カトリーヌさん

コメントありがとうございます。

確かにそうかもしれませんね。
でも私は、それがおそらくく人間らしさであり、圧倒する絶対的な社会に取り込まれてしまった個のふるまいではないかとも思うのです。
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2012/01/12 22:16
最強の動物である竜であっても、人に飼われると家畜と同じですね。
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2012/01/12 13:32
ドレイクと共に村を救って生きていく方法があれば良かったのに…

子供の感想文みたいでスミマセン><;
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2012/01/11 09:55
英雄談の裏側・・・人間のために友を屠るやり切れなさの伝わる作品ですね。
おそらく、ドレイクとともに王を打ち倒すという構想もなされたのではと思いますが、屠ることで余計に生きる厳しさが表現されているのにも思い当たり、何度も考えさせられる思いになりました。(^0^)
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2012/01/10 02:18
やはり、イセントも人間サイドの存在だったのね。
自分が、かわいがって育てたドラゴンよりも、
憎いはずの、生まれ故郷の村人を救う行動をするのは、
彼の心にあるジコチューと言っていいのかも。
彼のような人間が一番、身勝手で、邪悪なのかもしれませんね、
自分では気づいてないかもしれないけど(汗)。






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