【野望】-2
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/30 04:51:01
「いいニュースと悪いニュースがある」
学期間の休みに入って家に帰った俺に、親父がいきなりこう話しかけてきた。
「いったい、何の話だ?いきなり」
「お前、「金瞳の娘」の話を覚えているか?」
「覚えているとも。おかげで「狩り」に身が入らなくて」
「「学院」にいる間は、狩る相手は慎重に選べ。…そうじゃない。その娘が次の学期から「学院」に入ることになった」
「へぇ…まぁ「金瞳」持ちならいずれは入ることになっただろうけどさ、使い方をマスターするのに」
「それがな、その娘、「龍」に接触もできんらしい。使えると思わんか?」
親父の当初の計画では、自分の獲物を寵姫に仕立てて王に胤を付けさせ、できた「金瞳」の子を自分の支配下に置いたまま王室に送り込む、という予定だった。
ところが、何人寵姫を送り込んでも、王が手を付けるのは一度きり。中には手もつけずに閨から帰される女もいるという。なので胤を付けることができたのは、片手で数えられるほど。しかも「金瞳」は皆無、という体たらく。
「使える、って、何を、どう?」
「お前が、その娘を「狩る」んだ。お前の支配下に置けば、結果として目的は達成されることになる」
「金瞳」の娘を、支配下に置く。しかもそれはとても美しい娘だ、という。
考えているうちに、だんだんそれが魅力的な考えに思えてきた。
「…わかった。でも、できるだけ情報を集めてくれると、助かる。学院内では、親父の助けは期待できないからな」
待ちに待った新学期が近づいてきた。
俺はいち早く学院に戻り、新入生が一人、また一人と入寮するのを見守った。この中に俺が獲物にすべき女がいるのだと思うとつい、入口から入ってくる女子学生の方をより熱心に見てしまう。
その様子が不審だったのか、怪訝そうな顔で話しかけてきたやつがいた。
「遠くの知り合いでも入学してくる予定なのか?」
誰よりも先に寮に戻り、誰よりも後まで寮に残る男子学生だ。名前は、確か……
「アレクか。…まあ、そんなとこだ。今日着くかどうかも分からないんだけどさ」
「へぇ……早いとこ来てくれるといいな」
そう、心のこもらない返事を返すとやつはそそくさと寮を出て行った。
そいつがとてつもない美少年を伴って帰ってきたのは、小一時間も経ってからのことだった。玄関ホールでたむろしている女子学生は一斉に色めき立ったが、俺が待っているのは女子の新入生なので、すぐに目を入口の方に戻した。
数瞬の後、女子の入寮受付の方から、驚きの声がさざ波のように広がってきた。
怪訝に思ってそちらに目をやると、さっきの美少年が、そこで入寮手続きをしているのが見えた。どうやらあれは女子学生だったらしい。
俺が出遅れたことに気づいたのは、うかつなことにすべての新入生が入寮し終わってしまった後だった。
「いねーじゃん、そんな女」
名簿を手に入れて、獲物の姓名を確認するのに、授業開始から三日ほど要し、顔を確認するのに一日、接触するのにさらに一日かかった。
獲物の体型は、俺の好みから若干外れているが、許容範囲内だ。何よりも顔と声がいい。どんな声で啼くのかと想像するだけで、背中がぞくぞくする。
獲物は大層人目につく容姿をしているので、なかなか単独でいるところを捕まえられない。一人でいる時でも注目を浴びるのに、たいていの場合お守がついているのが厄介だ。学内では既に獲物とお守がセットでいるのが当たり前のように思われ始めている。早いとこ手を打たないと、「狩った」後で他の学生に不審に思われる。
手始めに「僕」を作ることにした。幻獣の力を男に対して使うのは、本当に久しぶりで、あまり楽しくない仕事だったが、なんとかやり遂げた。
「僕」はすべて新入生で、獲物と同じ授業を選択しているやつらから選んだ。上級生である俺が獲物の周りをうろつくのは、不自然だからだ。…獲物にいつもくっついているお守の奴も上級生だが、やつは既に獲物とセットでいることが当たり前のように認識されている。腹立たしいことに。