魔法のないファンタジィ
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/12/27 22:37:10
エンドマークが付いた花田一三六の〈戦塵外史〉から。
魔法のないファンタジィに遭遇するたびに、すこしばかり考えることがある。
ここで言う「魔法のないファンタジィ」というのは、この現実世界で起こりえない不思議が作中にない異世界(?)を舞台にした作品を指す。
マカヴォイの『黒龍とお茶を』みたいに、現実世界を舞台に表面上はなんの超常現象もおきないが間違いなくファンタジィ、なんて作品もあるが、今回話のネタにするのは、別世界の架空歴史物とでも呼ぶべき作品群。ライトノベル周辺などに存外多い。
このテの作品に遭遇すると、なんだか微妙な気分になる。
魔法(だかなんだか現実世界とは違う法則)があるのでないなら、書かれるのはこの世界の雛形だ。その上でその世界の政治だの戦だのを書いても、その行方は作者の胸三寸でどうにでもなる絵空事でしかない。どうにでも主人公無双が出来るので、物語の過程や結果だけでは意味がない、人を動かす何かがなければ話にならない、ストーリーにはなっても読者は鼻白むわけで。
本当のところ、フィクションはファンタジィではない作品も、実は同じく作者の手綱さばきで動かされる絵空事で、その展開だけを問題にするのは実は虚しい。
が、現実世界が舞台である場合、よほど無茶な展開をしないかぎり虚構であることはあまり問題にされない。
なのに別世界を舞台にした作品は「虚構だ、子供騙しだ」と叩かれることが多い。ファンタジィ好きを自認している人間としては、基準はなにやら、と知らず口が尖る。
展開が作者の意図・思惑で好きに出来る、不思議のない別世界を舞台にしている作品は、ならば何故架空世界でなければならないのか、つい読みながら考えてしまう。なので、点が辛くなることが多い。
〈戦塵外史〉シリーズを追いつつも、時に「現実と関係ない異世界なんだよな〜」と別世界である意義を考えてしまっていた。
特にこのシリーズの体裁が、過去の史書・資料にあたりながら語られる文書の形を採っているから、というのもあるだろう。
正直「田中芳樹はひとりでいい」と思いもした。
似たスタイルであっても、たとえば『銀河英雄伝説』なら抜群のキャラ立てとリーダビリティの良さを武器に、疑似歴史物を展開しつつ「(腐敗しない英明な君主による)独裁政治と(時代の流れで腐敗してしまった)民主制、相対したらどちらが勝利するか」という思考実験を(両者の危うさも書きながら)していて、形式に意味はある。
が、この〈大陸〉物、(シリーズタイトルがつくまで作者も読者も適当に呼んでいたw)このスタイルを採る意味はあるのかと考えた。
それ以外にも数人の歴史小説家を思わせる匂いもしたし、少々不安を感じもした。
が、書いていたのがまるきりの新人なのに魅かれるものがあったので、とりあえず追ってみた。
そう、新人の作だったのだ。
雑誌の読者投稿から「八の弓、死鳥の矢」が掲載された。掲載作のなかで一番面白かった(考えてみれば、ひどい。雑誌は最近廃刊になったが、よく保ったと感心する)ように思う。
執筆順を頭に置いて読むと、ちょっと感慨深い。
シリーズ最終作であるこの『双帝興亡記』は、利用されやすい駒である自分を国のため民のため殺せと「八の弓――」で言い放ったアイーシアの、苦難の道の末の幸せな光景で閉じられる。
作者二作目の掲載作が「ルクソール退却戦」(現在GA文庫から出ている〈戦塵外史〉なら一巻より二巻目の方が先行作になる)。で、前巻五冊目『戦士の法』は最後まで読むと「ルクソール——」(や、登場人物が共通する『野を馳せる風のごとく』)を読みたくなるよう出来ている。
もっとこの大陸の物語を読みたいとは思うけど、始まりと呼応するように世界が綺麗に閉じられていて、おそらく続きは望めないのだろう。
つい考えてしまう、物語を語るのにわざわざ魔法も不思議もない異世界を構築しなければならない理由だが、このシリーズでは、終盤に来てひっかかりを感じることはほぼなくなった。
五冊目『戦士の法』で史書・資料にあたりながら書かれた(『戦士の法』だと過去に書かれた本の校訂・再話)という形が仕掛けになっていた(最後まで読むと巻頭の献辞を見直すこと必定。で、話の見え方が違ってくるw)のもある。
が、それ以上にやはり「人間」なのだと思う。
人物が、血が通って描かれているかどうか。悩み、葛藤し、または迷わず、あるいは流されて安易に選び、行動する人々の心の機微や想いが書かれているかどうか、人間がちゃんと書かれていれば、世界はその人々が生きている場所として説得力をもつのだ、と感じた。
結局のところ、架空異世界歴史物のありや無しや?、は書き手の上手い下手の問題に帰着するらしい。
あまりにも単純で明確な原因で、ある意味、残酷だ。
すべては技量か。オソロシイ。
えー、米田仁士さんの挿絵だったのは旧角川の雑誌・単行本でのことです。
現在、GA文庫ではイラストレーターさんが替わっています。
が、内容に沿って、やはり今時の萌え絵の中では浮くぐらい渋め・地味めなイラストです。
いい話だと思うのだけど、手にとる人はいるのか心配になります。
読みたくなりました。
えーと、すごく個人的な視点で書いた文章なので、自分自身以外の人が読んでも何のこっちゃ? かもしれません。
そのヘン気にしてupしてなかった文章を貼り付け投稿のテストを兼ねて投稿してしまいました。
読んで「〈戦塵外史〉の話ほとんどしてないじゃん!」と思う方もあるかもしれません。ごめんなさい。
ながつきさん
雑誌に載った時の、角川版の米田仁士絵のアフローナ=アスティアが本当に綺麗で印象に残ってます。
雑誌、取っとけば良かったと思うほど(単行本絵はカラーじゃないので)。
最近のラノベには少ないタイプの話ですよね。
GA文庫の新刊刊行案内に並ぶ同時期の表紙絵のなかだと、もの凄いアウェー感がw
全巻一気読みじゃなくても充分楽しめるけど、以前の巻も手近に置いて見返せるようにしておくことをお薦め。きっとニヤニヤします。
実は最近まで、他出版で書き続けられているということに気付いていなくて・・・(おーい。
GA文庫を揃えている最中です。全巻一気読みをしようと思って。