波及<下>(自作小説倶楽部お題)
- カテゴリ:自作小説
- 2011/11/12 00:52:22
波及<えすかれーしょん>下
アリスとリーは、インフォリアアーカイブズにアクセスし、保管されている戦闘資料を貪った。それは戦術を高度化し、戦闘を激化させた。
箱庭にはユニット補修工場が増設され、補給物資が次々と投入された。ついには、ユニットが新たなるユニットを製造する工廠が建設され、ユニットも環境改変造成用から戦闘用のものへと変貌して言った。
アリスは白軍を白夜黒兎<ヴァラキス>と名づけ、リーは黄軍を黄道大蛇<プロヴィゾン>と呼んだ。
一ヶ月が過ぎようという頃には、二人とも指令プログラムの戦果報告に目を通すだけとなり、戦いは二人の手から離れていた。
箱庭は、もう以前の箱庭ではなく、リーがはじめは難色を示したものの、結果的にはアーコロジー全体が環境編成し直され、山脈が形成され、川が掘られ、海洋まで設けられた。あらゆる地形での戦闘を展開可能にした。
戦場が彼らの手へと戻ったのは、それからさらに数ヶ月が経過してからだった。
アリスがプロヴィゾン軍の戦術データリンクにハッキングを仕掛けたのだ。
黄軍は同士討ちを始め、白軍が席巻した。
「ハッキングなんて汚いぞ」と、リー。
「うるさいわね。禁止した覚えは無いわ!」
ハッキングに関してはSEであるアリスの方が一枚上手だった。ヴァルキス軍は既に情報戦への防備を固めていた。それに対して、リーは、所有する資源採掘衛星の軌道を変え、アーコロジーへと落とすことを思いついた。その威力たるは凄まじいものだった。ヴァルキス軍は大打撃を被った。
「資源衛星を落とすなんて卑怯よ!」
「そんな取り決めを結んだ覚えは無いよ」と、今度はリーがほくそ笑む。「それにアレは、ぼくのものだ。つまりプロヴィゾンの一部だ」
アリスは奥歯を鳴らして悔しがった。
「そら、これできみのヴァラキスもおしまいだ」
リーはまるで小石でも投げるように次々と資源衛星を落とした。
「まだよ! まだ終わってないわ!!」
そう、それは終わりではなく始まりだった。際限なく突き進む悪夢が幕を開けた瞬間だった。
まもなく衛星迎撃高射砲(レールガン)が配備され、攻体ユニットが空へ、宇宙へ、アーコロジーから飛び立った。
まるで地獄の門が開いたかのように戦域はクレーターから惑星全域へと広がった。だがそれを二人は止めようとはしなかった。二人とも負けたくなかったのだ。
そして、あれよあれよという間に、戦域は指数関数的に、爆発的に拡張した。惑星全体を覆いつくすのに数日、星系域で宇宙戦を繰り広げるにいたるまで一週間とかからなかった。
両軍は果敢に戦った。不意打ち、だまし討ちの応酬、惑星地表に降り注ぐさまざまな軌道兵器の攻撃にもめげずに敵を攻撃した。その根底にあったのは「敵を倒せ、やっつけろ!」という意思だった。
そして、その驚異的展開に、それをはじめた当人たちが危機感を覚えたときには、既に手遅れだった。
白軍の偵察ユニットがある周波帯の敵軍でないデータリンクの発信源を察知した。偵察ユニットは敵性の可能性ありと、中央指令本体に打診した。
中枢指令を司る<セントラルプライム>は、それを敵だと判断し、一個攻撃群を差し向けた。だがそれは、引力均衡点に浮かぶリーのホームステーションだった。
それを察知したリーは、プロヴィゾン軍で迎え撃とうとしたのだが、自律戦闘中のプロヴィゾンのセントラルプライムは彼の手を離れ、惑星の向こう側で大規模な侵攻作戦を進行中だった。援軍はとても間に合いそうも無いと知ったリーは、敵対存在ではないと攻撃の中止を請願したがヴァルキス軍は受け付けなかった。対抗策を取ろうにも連戦に次ぐ連戦で両軍の兵装は想像以上に強力なものへと変貌していた。もうホームステーションの自衛機能では太刀打することは叶わない状況だった。
そしてリーは最後の手段に出た。自らの敗北を認めヴァルキスの女神に助けを請うたのだ。
「アリス、助けてくれ!ヴァルキス軍にホームをロックされた。ぼくの負けだ。速くヴァラキスの侵攻をとめてくれ!」と、リーは懇願した「速くアリス! 速・・・・・・」
だが、運悪く、アリスのホームステーションは、リーのホームから見て惑星の影にあり、その呼びかけに彼女が振り向く前に大猫熊は消失してしまった。
アリスがそれを知り、リーのホームステーションが在った座標にたどり着いたとき、そこにあったのは、散らばる人工物の破片だけだった。
「私の勝ちね、リー」と、そういいながらもその表情は恐怖に引きつっていた。
その直後、リーの援軍要請に急行したプロディソン宇宙艦隊と、アリスの引き連れてきたヴァルキス艦隊との凄絶な戦闘が開始された。彼女のホームステーションもその戦闘に巻き込まれ、その後の彼女の行方を知るものは無い。
今は無き彼の星の名は<レプリス>
レプリアン・イン・ヴァラキス・ヴィズ・プロヴィゾン・ウォー、歴史に名高い第三次ロボット紛争の原点(コアゼロ)である。
なお、この戦術戦闘アルゴリズム群同士の戦闘は、現在も周辺星域へと拡散しながら進行中である。
<END>
さもなくば、戦争が人類に終止符を打つ事になる。」
by J・F・ケネディ
「戦争をはじめるのは簡単だが、戦争を終わらせるのは
難しい。」
マキャべり・・・だったかな?
どっかで止める人はいなかったんですか(@w@
結局身を滅ぼしてるし・・・・。
ゲームは時間を決めてやりましょう^^
対戦相手がいなくなっても続いているのですね
いつのまにか、本気の戦いが・・。
バーチャルな世界だけで閉じていれば、問題なかったのにね・・。
バーチャル世界をリアル世界と接続すると、こういうことに。
暴走する戦場を作り出したのは、2人のたわいないゲーム。
自制心のない人は、現実世界では、不幸を巻き起こす、
良い実例になってしまいましたね~(汗)。
萌☆もっこす様のバーチャル世界の描写、久しぶりに読みました。