Nicotto Town



星を盗む男 (1)

風はなかった。

海に面した街では珍しく、夜気は生暖かく乾いていた。

街灯の数は、乏しく、月は出てはいない。

そして明かりの漏れる窓は数えるほどしかなかった。

闇に占められた街は、

来る人を拒む威圧感のような

罠へ誘う静けさのような

なんともいえない雰囲気を醸し出していた。

足取りは重かった。

不慮の列車事故のおかげで、ダイヤは遅延

予定よりも大幅に遅れてたどり着いたからだ。

「今回も冴えない仕事になりそうだ……」

通りの角からわだかまるような闇が声を伴ってユラリと動いた。

泡が二つに分かれるように闇から離れた影は奥へと消えていった。


贋作集団「ヴァルハラ」その贋作工房の調査が今回の仕事だ。

ヴァルハラといえば超一流の犯罪集団…。

あいかわらず、危ない仕事ばかり回してくれる。

たいした報酬でもないのに見合わないリスクのような気がしてきた。

それでも、これ以外に生きる術を知らないのだから仕方ない。

クライアントの、どや顔を脳裏に浮かべながら暗い路地を急いだ。


ひたすら闇を進む影は、やがてひとつの明かりに晒された。

ギラギラのネオンというわけではなく

ランプがいくつかエントランスを照らす程度。

ホテル『ThreeStars』今夜のねぐらだ。

予定よりも随分遅れたがようやく辿り着くことが出来た。

ロビーへと進むが三ツ星の名前とは裏腹に、中身はひどく簡素なものだった。

けれど隅々まで手が行き届いている。

調度品はどれも、年代を感じさせるものだった。

「悪くないな」

手早くチェックインを済ませると、雪崩れ込むようにベットに倒れこんだ。

うつ伏せのまま瞼を閉じると、程なく意識は向こう側に吸い込まれた。


翌朝、ホテルで簡単に朝食を済ませた。

内装同様、派手さはないが安心できる味だった。

なるほどこの辺が三ツ星の由縁なのかもしれない。

その割に客の数はまばらで決して繁盛しているようには見えなかった。

この穴場的な雰囲気が、固定ファンにはたまらないのかもしれない。

そんなことを思いながら、コーヒーを時間をかけてゆっくりとすすった。

すこしだけ優雅な時間を過ごすと『ThreeStars』を後にし

潮の匂いが強い方へと向け歩を進めていった。

仕事は、極めて単純なものだ。

港の貸し倉庫をひとつひとつ当たっていく。

その中にあるかもしれない工房を求めて……。

持ってきた地図を広げると、すこしうんざりした気分になった。

「うぇ…。どれだけあるんだよ」

不意に顔にまとわり付いた潮風が、漏らした不満をさらって行った。


なるべく人の目を避けるようにして行動する。

この手の仕事の鉄則のようなものだ。

ひとけは、ほとんどない場所ではあるが無人というわけではない。

部外者がウロウロしていたら多少の不信感は抱くかもしれない。

その手のリスクは極限まで減らすに越したことはないのだ。



調べてみると当然のことながらほとんどが真っ当な倉庫であった。

半分も調べ終わると「情報もガセだったのではないか?」

などという疑念もむくむくと首をもたげてくる。

地図がXで埋め尽くされ、日も傾きかけた頃には

疑念は、確信に変わりかけていた。


海が綺麗なサンセットオレンジを描き始めた頃、ひとつの奇妙な倉庫を見つけた。

倉庫には似つかわしくない窓が、ひとつだけ不自然な位置にある…。

内側からブラインドが降ろされており中の様子は伺い知る事は出来なかった。

近づいてみる窓枠は溶接され、開けることが出来ないようになっていた。

開けることが出来ない窓…。

「なんとまあ、怪しいこと」

この手の仕事で生き延びてきたのだから

勘の重要性は認識している。

その勘が告げていた、コイツが探し物だと。


くるりと表に回り鍵を調べた。

何てことはない、他の倉庫と変わらない単純な南京錠。

さして苦もなく開け、侵入に成功した。

使われていないからだろうか?セキュリティらしき物はなく、

ガラーンとした空間があるだけだった。

気配も感じない…。

だが慎重に壁を背に一歩一歩、歩を進めていくことにした。

「臆病なくらいがちょうどいい」

何度も自分に言い聞かせてきた言葉だ。

程なくして、先ほどの窓があった部屋であろう前へと辿り着いた。

慎重に中の様子を伺うが、人の気配はない。

しかし中に何があるかわからない。

俺は用心のために護身用のナイフに手を掛け

残るもう片方の手でドアノブを握りゆっくり回していった。

「さあて、鬼が出るか、邪が出るか…。」

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2011/11/12 01:12
Re:futabaさん

是非続きも読んでくださいね~!
アバター
2011/11/09 11:14
面白そうw。どんな展開になるのか・・。
ドアの向こうが楽しみだ。



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