契約の龍(31)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/22 00:30:15
「おお、そう言えば、そなたが倒れた、と聞いてとんできたのだが…「龍」がらみだったのか?」
「ええ。ジリアン大公に「龍」への接触の仕方を見せていただいて、一緒について行ったら、「龍」に食べられかけましたの。慌てて逃げてきたんですけど、力を使い果たしてしまって。……もし、アレクが「力」を分けてくれなければ、今頃はハース大公の隣に並ぶ羽目になっていたかもしれませんわ」
「「龍」に、食べられかけた、だと?人に力を貸さないばかりでなく、そんなことまでするのか、あれは」
「龍」が、力を貸さない?
「…陛下。恐れ入りますが、それはいったいどういう…」
国王が、「しまった」、という顔をする。
「……貴公は、クリスティーナの「金瞳」の事は知っているのだな?」
かなりよく知らされていると思うので、うなずいて返す。
「ならば打ち明けてもよいと思うが…ここ数年、「龍」が魔法の行使に応じないのだ。今現在、王族のだれ一人として、「金瞳」の力を使えるものがおらぬ」
「誰ひとりとして?陛下ご自身も、ですの?」
「ああ。もともと大して使えていたわけではないが…最近では全く、だ」
一つ当てが外れた。本人が使えない、と言っているのに、やって見せてくれ、とはいえない。
「それは……他国に知られたら、かなりまずい事態では?」
「まあ、魔法学院を擁しているおかげで、人材には不足しないし、今のところ事を構えたがってる近所はいないので、大丈夫なようだが。…外交担当には感謝しないとな。…感謝、といえば、貴公にも、随分と世話になったようだ。感謝する。これからも、どうかよろしく頼む」
「お父様。ついで、と言ってはなんですけど、お願いがありますの」
ここぞ、とばかりに、クリスが最終兵器を繰り出す。
「…お願い?」
「もう一人の王族…クレメンス大公に御目通り願いたく存じます」
「クレメンス?フィンレイの事か?…だが…」
「大公が現在意識不明、という噂があるのは存じておりますわ。魔法学院での事故がきっかけだ、ということも聞き及んでおります。学長の話によると、お父様よりも殿下の方が魔法の才があった、ということも」
「…そなた、まさか、この事態はレイが引き起こしている、などと…」
「大公殿下が、ご自分の意思で引き起こしている、とまでは考えておりません。でも、事故の時に……何かがあって、そのせいで「龍」が異常をきたしているのかもしれない、とは考えられないでしょうか?」
「クリスティーナ……」
王が苦い顔をする。
「……そういう意見は、あの事故の当時からある。だが、あれ以降、誰一人として、「龍」に接触することが叶わないのだ」
「ですから、私が」
「そなたを失うわけには、ゆかないのだ。わかるな?「金瞳」を継ぐことができるものは、もう、そなたしか」
「ですが、陛下。「龍」があのように荒れたままでは、いずれ…いえ、今でも「金瞳」は意味のないものになっているでしょう?」
「……」
「お願いです、私に、やらせてください」
「……」
「私一人では戻って来られるかご心配でしたら、引き揚げ役として、アレクを同行したい、と考えています」
引き揚げ役って……そこまでは聞いていないが。
まあ、昨夜のことを鑑みると、仕方のない事ではある、か。
「……昨日は、「龍」に接触する事ができたのだな?」
「はい。昨日は、ジリアン大公を守りつつの撤退だったので、かなり消耗してしまいましたが、一人でだったら、もう少しうまく戻れた、と思います」
「彼の支援があれば、さらに安全に戻れるのか?」
「その、見込みはあるかと」
「……考えておこう。これが最大限の譲歩だ」
「ありがとうございます」
クリスが破顔する。
「ところで、この休みはどこで過ごす予定かな?マルグレーテがそなたに会うのを楽しみにしているのだが」
「……それは、許可を出す交換条件、という事でございましょうか?陛下」
「レイに会いたいのなら、王宮に来なくてはならんが。なんならそちらの彼、アレクといったかな、貴公も同行して構わないぞ。部屋は余っているからな」
ひとの休みの予定を、勝手に決めないでいただきたい、と思ったが、口に出すのは、我慢した。どうせ聞いてもらえる訳もないし。