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『平家物語』に見る陰陽道 18

いよいよ、物語は佳境に…

○晴信
(巻第十一 一〇 先帝御入水の事)下p199

 大臣(おほい)殿、小博士(こはかせ)晴信(はるのぶ)を召して、「いるかは常に多けれども、未だかやうの事なし。きつと勘(かんが)へ申せ」と宣へば、「このいるかはみ歸り候はば、源氏滅び候ひなんず。はみ通り候はば、御方の御軍危う覺え候」と申しはてぬに、平家の船の下を、直(すぐ)に這うてぞ通りける。世の中は今はこうとぞ見えし。

《訳》
 大臣殿(平宗盛)、小博士の晴信をお呼びになって、「いるかはいつも多いが、いまだこの様な事はない。古例を調べ、吉凶を占い、その結果から意見を申せ」とおっしゃったので、(晴信)「このいるかが元来た方へ泳ぎ戻りましたら、源氏は滅びましょう。(このまま)泳ぎ通りましたら、味方のご軍勢が危のうございます」と申し終わらぬうちに、平家の船の下を真直ぐに、(船底に)沿うようにして泳ぎ通った。世はもはやこれまで、と感じられた。

《解説》
 元暦二年三月二十四日の壇ノ浦合戦において、平宗盛が陰陽博士安倍晴信を召して、いるかについてその吉凶を占わせる場面。いるかの群れの進路によって戦況を占う、いささか語弊があるが、いるか占である。平家の軍船の下を通り過ぎることがなぜ凶兆なのだろうか?知能の高いいるかの行動に呪術的な意味を昔の人は見い出していたのかもしれない。

 また、博士の頭に小とつくのは不明。若い陰陽師のことではないかと、私は考えている。博士は官名の一つで、ここでは陰陽寮の陰陽博士。晴信は諸本で、晴延・晴基などとされる。晴信等は未詳だが、晴基は晴明九代の孫で、『安倍氏系図』に「大堅物漏刻博士」とある。漏刻博士は陰陽寮所属の官人で、漏刻(水時計)によって、時刻を報じた。しかし九代では時代的に合わない。

 差し迫った戦局に直面して、陰陽師が悠長に占うとは考え難いとの意見もあるが、平家滅亡という悲劇の結末を、天の意思を読み説く陰陽道の卜占が伝えるという、予兆の手法が取り入れられ、その思想が最も発揮された場面である。

 この後、平家方は総崩れ、清盛に代わって一門の末期を見届けた二位の尼は、神璽・宝剣を携えて、愛孫安徳幼帝をお抱き申し、「波の下にも都がございますよ」と慰め申して壇ノ浦に入水されるのである。

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2009/05/16 15:17
良いほうに転んだら、笑い話で済みますが、悪いほうだったら、首が飛ぶでしょうね(文字通り!)
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2009/05/15 19:16
とうとう幼帝入水の段ですか…!
しかし動物の何げない行動から予兆を読み解くとは…それが仕事とは言え、仮に読み間違えたらどうなっていたのだろう?と、素朴な疑問が浮かびました。



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