あるところに小さな人形がいました、
人形をあまり可愛がらない女の子のものでした。
長いこと人形はコートのポケットの中に入れられたまま、忘れられていました。
ある雨の日、女の子はそのコートを着てお母さんと買い物に出かけました。
食料品売り場を歩きながらコートのポケットに手を入れると、
何か硬い物に触れました。
それは小さな人形でした、女の子は「おんぼろなきたない人形」と言って、
さっさとポケットの中にしまおうとしました。
でも、人形のことなど大切に思ってなかったのでポケットの中に入らず、
冷凍食品が並んでるケースの中に落ちてしまいました。
冷たいグリーンピースの箱の隣で小さな人形はしばらくの間じっとしてました、
自分はどうなってしまうんだろうと途方にくれていました。
あまりに悲しかったのです、きたない人形はなんて言われてしまって。
そして、置き去りにされてしまったから。
冷凍食品のそばはとても寒くじっとしていると凍りついてしまいそうです、
小さな人形は歩き出すことにしました。
回りを見学しようと思ったら滑ってしまいました。
床は真っ白でバリバリしていますまるで冬の朝、霜の降りた地面のようです。
グリーンピースの箱がたくさん重なっています、人形から見ると巨大なビルのようです。
箱と箱のすき間はせまい路地のように見えました。
あっちえ行ったりこっちえ行ったり、
グリーンピースの箱を過ぎてインゲン豆・ほうれん草・ブロッコリー通りを横切って、
ミックスベジタブルの袋の山にたどり着きました。
角を曲がるとコロッケ・魚フライ、さらにドンドン歩いて探検を続けました。
イチゴのアイスクリームのところにやって来ました、
アイスクリームの箱にイチゴの絵が描いてあります。
それを見ると昔庭のイチゴ畑で迷子になった事を思い出しました、
一日中お日様の匂いを嗅いでイチゴをたくさん食べました。
今、人形はたくさんの冷たい箱の街で迷子です。
ここでも、イチゴ畑の時のように出来るだけゆっくりしようと思いました。
でも困ったことがひとつありました、
買い物に来る人たちがしょっちゅう箱を持って行ってしまうのです。
そのつど、お店の人が新しい箱を置きに来るのです。
そんな時は本当にひやっとします、
魚のフライの箱で押しつぶされそうにもなりました。
冷凍庫に落ちてからいったいどれくらいたったでしょう、
小さな人形は何日たったのかなんて分かりません。
時々ものすごく静かになりました、
たぶんお店が閉まっている時間なんだろうと人形は思いました。
ある日アイスクリームを食べながら、
ふっと上を見ると見知らぬ小さな女の子の顔が見えました。
女の子は人形をかわいそうに思いました、
自分の家に連れて帰りたいと思いました。
人形はとても寒そうで、とても寂しそうです。
でも、女の子は人形を救い出すことはできません。
お店の物に触ってはいけませんと、いつも言われているのです。
それでも、どうにかして人形の助けになりたいと思いました。
そこで家に着くとすぐに、人形のために暖かい服を作り始めました。
まず、赤いフランネルで帽子を作りました。
最初の贈り物は簡単に作れるもの、
そしてもちろん喜んでもらえるものがいいと思ったのです。
おやつを食べて休憩してから、
今度はお母さんに手伝ってもらって青いベルベットでコートを作りました。
縫うのが大変だったので寝る時間までかかってしまいました。
でも、すべすべしたとてもキレイなコートが出来上がりました。
次の日、女の子はコートと帽子をマッチ箱の空き箱に入れて、
茶色の紙でくるみ、ひもで結んで小さな包みを作りました。
そしてお母さんが買い物に行くときに、一緒についていきました。
お店に着くとすぐに冷凍食品の売り場に行き、
あの小さな人形を探しました。
人形はなかなか見つかりませんでした、どこにもいない、
と思った時とつぜん姿が見えました。