■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に…(22)
- カテゴリ:その他
- 2011/09/03 00:08:58
■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に詣づるの記 七(1)
七
川に沿ひ寺を圍《かこ》んだ廣い墓地には、楡《にれ》の大木《たいぼく》が所々《ところ/″\》に蔭《かげ》をなして、細工を凝らした花壇や、硝子箱に入れた造花《つくりばな》の仰々《ぎやう/\》しい新墓《あらはか》の脇を通りすぎれば、青苔に埋もれた古い墓、試に手で拂へば、木蔭《こかげ》の露がしとゞ滴《た》れる。地は一面に掃き清められて、塵一すぢも落ちてはゐない。時々さらゝの音を立てるのは、エヴン川を渡る微風に、楡の葉の摺れるのであらう。川向ふの牧場《まきば》からは、稀れに牛の鳴く聲が聞こえる。墓地を一巡して川に臨んだ小高い土手の上に出れば、木の下に共同椅子が据ゑてある。三人は之れに腰をおろした。見渡す限り、エヴン川は、水嵩《みづかさ》ゆたかに牧場《まきば》の草の根を浸して、漣波《さゞなみ》の果て遠く、もとは一面の葦の繁みであつたといふ小島の跡に續く。
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*註1:沿ひ
「沿」の旧字体。「サンズイ」+「几」+「口」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/en_sou.jpg
*註2:所々《ところ/″\》
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註3:花壇
「壇」の俗字体。旁の「旦」部分が「且」。
*註4:硝子箱
「硝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shyou.jpg
*註5:造花《つくりばな》
「造」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註6:仰々《ぎやう/\》しい
原本のルビは「ぎよう/\」とあるが改めた。
*註7:通りすぎれば
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註8:青苔
「青」の正字体。「月」は「円」。
*註9:滴《た》れる
「滴」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/teki_shitataru.jpg
*註10:掃き
「掃」の旧字体。「テヘン」+「帚」。
*註11:清められて
「清」の正字体。「月」は「円」。
*註12:音を立てる
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg
*註13:微風
「微」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bi_kasuka.jpg
*註14:摺れる
「摺」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syou_suru.jpg
*註15:一巡
「巡」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註16:据ゑてある
原本では「据えてある」とあるが改めた。
*註17:浸して
「浸」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shin_hitasu.jpg
*註18:遠く
「遠」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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- 銀の堕天使@ゆう
- 2011/09/03 00:34
- 小島よしおの跡、最近見ないね
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